中国で第4例目の脳脊髄インターフェース手術 24時間で歩行回復
脊髄損傷で歩けなくなっていた患者が、手術からわずか24時間で立ち上がり歩いた──。中国・上海の病院で行われた「脳脊髄インターフェース」手術が、脊髄損傷治療の可能性を大きく広げています。
何が起きたのか:中国で第4例目の臨床手術
中国の研究チームは、上海の中山病院で全下肢麻痺の患者に対し、脳と脊髄をつなぐ「脳脊髄インターフェース(Brain-Spine Interface、BSI)」を用いた手術を実施しました。手術は最小限の切開で行われ、術後24時間以内に患者が立ち上がり、歩行できるようになったと報告されています。
この手術は、臨床での有効性を確認するために行われた第4例目の「概念実証」手術です。中山病院によると、全下肢がまひした患者がBSI技術によって立位と歩行を回復した例としては、世界初だとしています。
- 場所:上海・中山病院
- 対象:全下肢麻痺の脊髄損傷患者
- 手術時間:約4時間(脳と脊髄の両方の処置を含む)
- 結果:術後24時間以内に下肢の動きと歩行を回復
脳脊髄インターフェースとは何か
脊髄が損傷すると、脳からの指令が脊髄の神経細胞に届かなくなり、下半身の運動や感覚が部分的または完全に失われます。今回の研究チームは、この断たれた回路を「電子的な橋」でつなぎ直す発想で治療に挑みました。
中山病院と復旦大学・脳インスパイアドインテリジェンス科学技術研究所が共同開発したBSI技術は、次のような「三位一体」の仕組みを持っています。
- 脳の運動野から脳信号を集める
- 人工知能(AI)を用いて、患者が「どう動きたいか」をリアルタイムで解読する
- その結果をもとに、脊髄の特定の神経根に電気刺激を与える
この神経の「橋」によって、脊髄損傷で途切れた脳と脊髄の通信を迂回し、患者自身の意思で脚を動かせるようにするのが狙いです。
脳に電極、脊髄に電気刺激 4時間の手術の中身
今回の最小侵襲手術では、直径約1ミリの電極チップ2枚が脳の運動野に埋め込まれました。同時に、脊髄側には硬膜外電気刺激(EES)と呼ばれる方法で刺激装置が設置されました。脳と脊髄の両方の処置を含め、手術はおよそ4時間で完了しています。
術後24時間以内には、AIによる信号解読と電気刺激の調整が行われ、患者は下肢の動きと歩行機能を取り戻しました。復旦大学は、この回復がAIによる信号処理とBSI技術の組み合わせによるものだとしています。
最大の壁は「リアルタイムで意思を読む」こと
BSI技術の難しさは、単に電極を埋め込むことではなく、「人が動きたいと思った瞬間の意思」をいかに正確かつ瞬時に読み取るかにあります。人体に埋め込める電極の数には制約があるうえ、処理速度が少しでも遅れれば転倒の危険があるからです。
研究を率いるJia Fumin教授は、「患者が脚を上げようとしているのに、アルゴリズムが意図を読み取れなかったり、数秒遅れたりすれば、患者は転倒してしまう」と説明しています。チームは約3年にわたってアルゴリズムの改良を続け、ようやくリアルタイムで運動の意思を解読できる仕組みを実現しました。
今年1〜2月の3例に続く第4例目の結果
この研究チームは、2025年1月から2月にかけて、すでに3例の概念実証手術を完了しています。いずれも重度の脊髄損傷患者で、手術後2週間以内に脚の制御と歩行を再獲得したとされています。
今回の第4例目は、2つの病院で計4件の手術が行われたうえでの成果であり、研究チームは「技術が再現可能であり、拡張性も確認できた」と評価しています。Jia教授は、「期待どおり、あるいは期待を上回る治療効果が得られた。これは技術的な勝利であると同時に、患者にとって新しい人生の始まりでもある」と述べています。
脊髄損傷治療はどう変わるのか
今回の脳脊髄インターフェース手術が示したのは、リハビリや薬物療法だけでは回復が難しかった重度の脊髄損傷に対し、「神経回路を電子的に補う」という新たな選択肢が現実味を帯びてきたということです。
注目すべきポイントは次の通りです。
- 全下肢麻痺の患者が24時間以内に立位・歩行を回復したというスピード
- 複数の病院で手術が行われ、技術の再現性が確認されつつあること
- AIと電気刺激を組み合わせた「次世代型」脊髄損傷治療の実例であること
まだ臨床試験の段階ではありますが、脊髄損傷治療のアプローチそのものを変え得る技術として、今後の進展が注視されます。
これから問われる倫理とアクセス
同時に、こうした先端医療が広がるほど、いくつかの論点も浮かび上がります。
- 高額になり得る治療へのアクセスを、どのように公平に確保するか
- AIが解読する脳信号データを、どのように安全に管理するか
- リハビリ医療や介護との役割分担をどう設計するか
脳と機械をつなぐニューロテクノロジーは、患者の生活を大きく変える可能性を持つ一方で、社会としてのルールづくりも求められます。
数百万の患者と家族への「希望」へ
研究チームは、今後も脳脊髄インターフェース技術の最適化とアップデートを続け、より多くの脊髄損傷患者の歩行機能回復を目指すとしています。脊髄損傷に苦しむ数百万規模の患者と家族にとって、今回の成果は現時点での最終解決策ではなくとも、確かな「一歩」として受け止められそうです。
2025年も終盤に差しかかるなか、医療とAI、神経科学が交差する領域で、こうした試みは今後さらに世界各地で議論と関心を呼びそうです。脳と脊髄を再び結ぶこの技術が、どこまで安全かつ実用的な治療として定着していくのか。引き続き注意深く追いかける価値があるテーマだと言えます。
Reference(s):
China conducts 4th brain-spine interface surgery on paralyzed patients
cgtn.com








