中国研究チーム、「ゴールデン半導体」量産に成功 次世代AIチップに道
中国の研究チームが、高品質な「ゴールデン半導体」インジウムセレン化物を量産できる新手法を開発し、シリコンに代わる次世代半導体チップの実現に一歩近づいたとする研究成果が公表されました。
「ゴールデン半導体」とは何か
現代の情報社会を支える集積回路(IC)は、これまで主にシリコンを材料として性能を高めてきました。しかし、シリコンベースのチップは物理的な限界に近づきつつあり、より高性能で省エネルギーな新しい半導体材料の開発が世界的な課題になっています。
インジウムセレン化物は、その優れた特性から「ゴールデン半導体」とも呼ばれ、次世代材料の有力候補とされています。一方で、大面積かつ高品質な結晶を安定して作ることが難しく、量産と実用化のネックとなってきました。
課題は「インジウムとセレンの1対1比」
今回の研究は、北京大学と中国人民大学の研究チームによるもので、米科学誌「Science」のオンライン版で紹介されました。
鍵となる課題は、材料中のインジウムとセレンの原子比を理想的な1対1に、いかに正確に保つかという点でした。北京大学物理学院の劉開輝(Liu Kaihui)教授は、この比率がわずかにずれるだけで材料の品質が大きく低下してしまうとし、これまでの量産が難しかった理由だと説明しています。
新手法の中身:密閉環境で結晶を「育てる」
研究チームが開発したのは、非晶質(アモルファス)のインジウムセレン化物薄膜と固体インジウムを、密閉された環境で加熱するという手法です。プロセスのイメージは次のようなものです。
- インジウムセレン化物の非晶質薄膜と固体インジウムを密閉空間に配置する
- 加熱によってインジウム原子が蒸発し、薄膜の端にインジウムが豊富な液体の界面が形成される
- この界面から、原子が規則正しく並んだ高品質のインジウムセレン化物結晶が徐々に成長していく
この方法によって、インジウムとセレンの原子比を適切な1対1に保つことができ、これまで量産の妨げとなっていたボトルネックを解消したとしています。劉教授は、この突破口により、インジウムセレン化物を「研究室レベル」から「工学・応用レベル」へと押し上げることができたと述べています。
直径5センチのウエハーと大量トランジスタを実証
研究チームは、この新手法を用いて直径5センチのインジウムセレン化物ウエハーを作製することに成功しました。ウエハーとは、チップを大量に作り出すための円盤状の基板のことです。
さらに、北京大学電子学院の邱成光(Qiu Chengguang)研究員によると、このウエハー上で高性能トランジスタの大規模アレイ(規則的に並んだ多数の素子)を構成することにも成功し、そのまま集積回路に利用できるレベルに達しているといいます。
これは、単に「新しい材料ができた」という段階を超え、実際のチップ製造プロセスへの応用を見据えた成果といえます。
次世代チップとAI・自動運転へのインパクト
劉教授は、このブレークスルーが、高性能かつ低消費電力の次世代チップに新たな道を開くと強調しています。こうしたチップは、今後次のような分野で幅広い応用が期待されています。
- 人工知能(AI)向けプロセッサ
- 自動運転システム
- スマートフォンや各種スマート端末
これらの分野では、膨大なデータ処理と省エネ性能の両立が求められており、シリコンを超える特性を持つ新材料への関心が高まっています。今回の成果について、Scienceの査読者は「結晶成長における前進」と評価しており、材料科学と半導体技術の両面で注目されています。
私たちの生活にどう関わってくるのか
インジウムセレン化物の量産技術がさらに成熟し、実用チップとして広く使われるようになれば、スマートフォンやクラウドサービス、AIアシスタント、自動運転車など、身近なデジタル製品の性能や省エネ性能が一段と向上する可能性があります。
もちろん、研究室での成果がすぐに製品化されるわけではありませんが、今回の手法によって「量産」という大きなハードルを一つ越えたことは確かです。シリコンに次ぐ新しい半導体材料を巡る国際的な開発競争の中で、中国発のこの研究は、次世代チップの行方を考えるうえで押さえておきたいニュースと言えるでしょう。
Reference(s):
China develops new method to mass-produce high-quality semiconductors
cgtn.com








