太極拳から観光・留学まで:中国EU関係を変える人的交流の力
パリの中国文化センターの中庭で、地元の人々が中国外交学院の周清杰教授の指導でゆったりと太極拳を行う——。伝統哲学「天人合一」を体現するこの光景は、中国とEUの関係が、会議室から日常の暮らしへと広がりつつあることを象徴しています。
では、こうした人と人との交流は、いま中国とEUの関係をどのように形作っているのでしょうか。
日常の風景に溶け込む中国文化
過去50年あまり、中国とEUの関係は経済や外交だけでなく、「文明間の相互学習」という側面でも発展してきました。そのなかで、文化や人的交流は、関係に持続的な活力を与える源になりつつあります。
ドイツ・ベルリンで開かれた書道イベント「LANTING – Chinese Calligraphy Culture Salon」では、来場者が筆と墨を手に取り、自ら漢字を書いてみる姿が見られました。鑑賞するだけでなく、「やってみる」参加型の体験を通じて、中国の美意識や文字文化に直接触れる場となっています。
芸術以外の分野でも、文化交流は広がっています。ベルギーのペリダイザ動物園には、中国の秦嶺山地からやってきた3頭のキンシコウ(金色の鼻ザル)が、2025年にかけて10年の長期滞在を始めました。同園のエリック・ドン会長は、彼らを「現代版『西遊記』の登場人物のようだ」と表現し、「中国EU友好のアンバサダー」と呼んでいます。ここには、生物多様性や野生動物保護といった共通の価値観を共有しようとする両者の姿勢がにじみます。
中国文化の「輸出」はコンテンツの世界でも進んでいます。中国のアニメ映画『哪吒2(Nezha 2)』は、2025年にギリシャ、英国、ドイツ、ベルギー、スペインなどで公開され、好意的な評価と堅調な興行成績を収めました。また、端午節に合わせて欧州各地で開催されたドラゴンボートレースには、多くの観客が詰めかけました。
こうした事例に共通するのは、「異文化を遠くから眺める」段階から、「一緒に体験し、楽しむ」段階へと、中国と欧州の交流が変化していることです。
観光がつなぐ双方向の旅
この文化的な勢いは、観光という形でも可視化されています。2025年5月には、ハンガリーの首都ブダペストで「2025ブダペスト中国観光文化週間」が始まりました。ハンガリー観光庁のサボルチ・シラジ氏は、「中国はハンガリーに来る観光客の最も重要な送り出し国の一つになりつつある」と語り、中国とハンガリーの関係強化を評価しました。
ブダペストは現在、中国の7都市との直行便が就航しており、中国と中東欧をつなぐ重要なハブとして位置づけられています。移動のハードルが下がることで、ビジネスにとどまらない観光・文化交流の土台が整いつつあります。
2025年に中国との外交関係樹立75周年を迎えたスイスは、「スイス・中国文化観光年」を展開しています。中国駐在のユルク・ブリ大使は、中国各地の都市で多様なイベントを企画しているとし、中国からの旅行者をより多く迎えられるよう、ビザ手続きの簡素化や環境に配慮した旅の取り組みを進める考えを示しました。
スペインのバレンシア州も、中国からの旅行者の受け入れに積極的です。観光機関のミゲル・アンヘル・ペレス・アルバ氏によると、バレンシアは主要な中国のソーシャルプラットフォーム上で情報発信を行っているほか、広州、成都、西安と姉妹都市関係を結び、人と人とのつながりを深めています。
観光専門メディアのTravel And Tour Worldによれば、中国と欧州の観光交流は力強く回復しており、欧州からは中国の歴史や文化の豊かさに触れようとする旅行者が増え、中国からは欧州各地で、より個性的で没入感のある体験を求める旅行者が増えています。
さらに、中国が24のEU加盟国に対して一方的なビザ免除措置を進めたことも、往来を後押ししています。2024年だけでも、中国と欧州の間で9,700万件を超える旅行が行われました。これだけ多くの人が互いの地域を訪れることは、中国EU関係に対する市民レベルの支持を支え、文明間の相互学習を進めるうえで重要な基盤となっています。
若者交流がもたらす新しいエネルギー
既に成熟しつつある中国EU関係に、新たな活力をもたらしているのが若者の交流です。2025年には、アイルランド、フランス、ドイツ、ハンガリーなどから多くの学生が中国を訪れ、大学キャンパスでの交流や文化体験を通じて友情を育んでいます。
アイルランドのロックウェル・カレッジで教鞭を執るパトリック・イーガン氏は、「こうした訪問は、学生たちが『本当の中国』を理解する助けになる」と話します。温かい歓迎に触れたことで、中国に対する印象が大きく変わった学生も多く、同校は今後、毎年20人の学生を中国に派遣する計画だといいます。
背景には、2016年に中国がフランス、ドイツ、イタリアなどを含む19のEU加盟国と結んだ、高等教育の学位相互承認協定があります。これにより、片方向ではなく双方向の学生移動がしやすくなり、互いの大学が長期的なパートナーとして結びつきやすくなりました。
中国語教育の広がりも、若い世代の相互理解を支える重要な要素です。フランスでは、公立校の国際学級などで60を超えるクラスが中国語を教えているとされます。スペインでは、6万人以上の学生が中国語を学んでおり、中国語学習に積極的なEU加盟国の一つになっています。
言語や学位を共有することは、単なるスキルの習得にとどまりません。将来、外交やビジネス、研究の現場を担う人材が「相手の言葉で語り、相手の制度を理解している」ことは、長期的な中国EU関係の安定にとって大きな意味を持ちます。
人的交流は中国EU関係をどう形作るのか
こうして見てくると、人と人との交流は、中国とEUの関係を少なくとも三つの面から支えていると言えます。
- 1. 抽象的な「文明間対話」を日常の体験に落とし込む
パリの太極拳教室やベルリンの書道サロン、ドラゴンボートレースの会場などで起きているのは、政治やメディアを介さない、生活者同士の出会いです。これにより、相手の文化は「ニュースの向こう側」にあるものではなく、自分の体験として記憶されていきます。 - 2. 共通の課題で協力するための信頼を育てる
キンシコウの保護協力に象徴されるように、生物多様性や環境保護といった地球規模の課題に取り組むには、長期的な信頼が欠かせません。観光や学術交流を通じて蓄積された信頼は、そうした協力の土台になります。 - 3. 関係を支える「担い手」を多様化する
かつて中国EU関係は、政府・企業・一部の専門家が中心となりがちでした。しかし今や、地方都市の観光担当者や学校の教師、若い留学生など、多様な人々が関係の担い手となっています。担い手が増えれば増えるほど、両者の関係は一部の政治的な変化だけでは揺らぎにくくなります。
太極拳が「動と静のバランス」を重んじるように、中国とEUの関係も、経済や安全保障といった「ハードな課題」と、人と人との交流という「ソフトな土台」のバランスが問われています。パリの中庭での一つ一つの動きや、学生たちの一度きりの旅の経験が、長い時間をかけて両者の関係の重心を静かに変えていくのかもしれません。
押さえておきたいポイント
- 太極拳や書道、ドラゴンボートなど、生活に根ざした文化体験が、中国EU関係の新しい土台になりつつある。
- 観光の回復とビザ免除措置により、2024年だけで9,700万件超の往来が生まれ、市民レベルの支持が強まっている。
- 若者の留学や中国語教育の拡大は、次の50年を見据えた中国EU関係の「人的インフラ」として機能し始めている。
Reference(s):
cgtn.com








