グローバルサウスが変える世界の健康ガバナンス 世界健康サミットCEOの視点 video poster
世界健康サミット(World Health Summit)の最高経営責任者(CEO)、カルステン・シッカー氏が、今年開催されたボアオ・フォーラム・フォー・アジアのグローバルヘルスフォーラムで、グローバルサウスと中国の役割を軸に「より公平で包摂的なグローバルヘルス・ガバナンス」の必要性を強く訴えました。
- 長年、グローバルヘルスは「グローバルノース」が主導してきたと指摘
- 地政学的な分断と信頼の揺らぎの中で、新たなリーダーシップと南南協力の強化を提唱
- グローバルサウスをリードする存在として、中国の役割に期待を示す
「北」に偏ってきたグローバルヘルス
シッカー氏はインタビューの中で、「グローバルヘルスはあまりにも長い間、グローバルノースに支配されてきた」と問題提起しました。ここでいうグローバルノースとは、世界の意思決定や資金、研究ネットワークを握ってきた国・地域を指します。
感染症対策や保健システムの強化に関する議論は、多くの場合そうした国・地域の視点や優先順位に沿って組み立てられてきました。その結果、実際に深刻な健康課題に直面しているグローバルサウスの人々の声が、十分に反映されてこなかった側面があります。
シッカー氏は、現在直面している危機を「より公平で、より包摂的なグローバルヘルスの仕組み」をつくるための転換点だと捉えています。国際ニュースとしてのグローバルヘルスを見るとき、「誰が決めているのか」という視点があらためて問われていると言えます。
分断と不信の時代に必要なものは「新しいリーダーシップ」
シッカー氏がインタビューに応じたのは、ボアオ・フォーラム・フォー・アジアのグローバルヘルスフォーラムの会場です。世界ではいま、地政学的な分断が進み、国と国の間の信頼が揺らいでいると指摘されています。そうした状況だからこそ、同氏は「新しいリーダーシップ」の必要性を強調しました。
ここでいうリーダーシップとは、特定の国が一方的に主導権を握ることではありません。健康危機への備えや対応を、より多くの地域・多様な主体が分かち合う「協調型のリーダーシップ」に近いイメージです。
シッカー氏はその文脈で、「南南協力」の強化を挙げています。南南協力とは、グローバルサウスの国・地域同士が経験や技術、資源を共有しながら連携する取り組みです。保健システムの強化や人材育成、医薬品アクセスなど、共通する課題に対して、当事者同士が対等な立場で学び合うことが期待されています。
中国とグローバルサウスの役割
シッカー氏は、より強靭で公平なグローバルヘルス体制をつくるうえで、中国が重要な役割を果たしうると見ています。発言によれば、中国はグローバルサウスをリードし得る存在として位置づけられています。
これは、グローバルヘルスの議論の中心が一部の「北」から「南」を含む多極的な構図へと移っていくべきだ、というメッセージでもあります。アジアの一員である中国が、グローバルサウスの声を国際的な議論につなぐハブとなることへの期待がにじみます。
日本の読者にとっても、この視点は無関係ではありません。アジアの中で、日本はどのようにグローバルサウスや中国と連携し、より公平な国際保健(グローバルヘルス)ガバナンスに関わっていけるのか。今後の対話の重要な論点になりそうです。
世界健康サミットとはどんな場か
シッカー氏が率いる世界健康サミット(World Health Summit)は、2009年に立ち上げられました。発足以来、政策決定者と、大学などの学術界、企業などの産業界、市民社会の専門家が一堂に会する「対話の場」を提供してきました。
特徴的なのは、単に政府同士の会議ではなく、多様なステークホルダーが集まる「フォーラム」である点です。政策、研究、ビジネス、市民社会がそれぞれの知見を持ち寄り、「健康」という共通テーマのもとで議論することで、より実行力のあるアイデアやパートナーシップを生み出すことが狙いとされています。
今回の発言も、その延長線上にあるものだと言えるでしょう。グローバルヘルスのガバナンス(意思決定の仕組み)を見直すためには、議論の場そのものを開かれたものにしていく必要があります。
日本の読者への問いかけ:私たちはどこに立つのか
CGTNの単独インタビューで語られたシッカー氏のメッセージは、日本に暮らす私たちにもいくつかの問いを投げかけています。
- グローバルヘルスの議論は、誰の視点から語られているのか
- グローバルサウスの経験やニーズは、どの程度反映されているのか
- 日本は、どのような形で南南協力や地域協力を支えうるのか
健康危機は、国家間の対立や経済格差とは無関係に、世界中の人々に影響します。その意味で、より公平で包摂的なグローバルヘルス・ガバナンスをめざすという問題意識は、特定の地域や立場に限られたものではありません。
ニュースとしてこの発言を追うだけでなく、「自分が所属する社会や組織は、この変化の中で何ができるか」を考えてみることが、次の一歩につながっていきます。
グローバルサウスが声を強め、中国を含むアジアの役割が増していくなかで、世界の健康をめぐる意思決定の地図は、これから大きく描き替えられていく可能性があります。そのプロセスを、当事者意識を持って見つめていくことが、私たちに求められているのかもしれません。
Reference(s):
Health Talk: Reshaping global health governance with the Global South
cgtn.com








