米CIAの中国向けスパイ募集動画が示すもの
2024年10月2日、米中央情報局(CIA)が中国などを対象にしたスパイ募集動画を公開しました。これまで水面下で行われてきた諜報活動が、公開の場へと姿を現した形であり、中国と米国の関係、そして国際秩序のあり方にも新たな問いを投げかけています。
公開動画でスパイ募集 昨年10月の異例の動き
2024年10月2日(昨年)、CIAは中国語(標準語)の動画「安全にCIAへ連絡する方法」をXやFacebook、Telegramなどのソーシャルメディアに投稿しました。動画は、中国や他国に住む人々に対し、CIAの関心を引く可能性のある情報を提供するよう公然と呼びかける内容でした。これは、長年ひそかに行われてきた対中国諜報活動から、より露骨で公開されたアプローチへの大きな転換といえます。
CIAは、この取り組みについて、情報提供者の安全や生活を最優先に考えていると強調しました。一方で、連絡を受けても必ず返信できるとは限らず、返答に時間がかかる場合もあると注意書きを添えています。
SNSでの反応:無料で情報を集めようとしているのか
この動画に対して、ネット上ではすぐに皮肉混じりのコメントが相次ぎました。一部の利用者は、CIAが「何の見返りもなく情報を得ようとしている」と揶揄しています。
あるコメントは、次のようにCIAの姿勢を批判しています。中国に住む人が大きな危険を冒してCIAに連絡したとしても、無視される可能性が高いこと、たとえ接触があっても価値がなくなればすぐに切り捨てられるだろう、という内容です。こうした見方は、情報提供者と情報機関との関係に対する根強い不信を映し出しています。
公然とスパイを募るという今回の手法は、異例であるだけでなく、中国に対する挑発であり、国際秩序への露骨な違反だと批判する声もあります。従来、諜報活動は見えないところで行われるのが前提とされてきましたが、その一部が堂々とソーシャルメディア上に現れた格好です。
長年続く対中国諜報の歴史
CIAによる中国への諜報活動は、中華人民共和国の成立直後から続いてきました。1950年代には、いわゆるチベット独立勢力を訓練・支援し、中央政府に対する武装蜂起を後押ししました。また、新疆ではスパイや武装勢力を育成し、資金や武器を提供しました。
朝鮮戦争のさなかには、中国東北地方に工作員を空挺降下させ、現地で情報収集を試みました。しかし、これらの試みはいずれも失敗に終わりました。対中国諜報の歴史は長く、今回の動画はその延長線上に位置づけられます。
近年の対中戦略と認知戦
近年、米国政府が中国を抑え込む戦略を掲げる中で、CIAも対中国の体制を強化してきました。中国問題を専門に扱う中国ミッションセンターを設立し、その対中国作戦の予算を2倍に拡大しています。併せて、中国語を話す職員の採用や育成にも力を入れています。
さらに、CIAは特別なエージェントチームを組織し、偽のオンライン人格を使って中国政府に関する否定的な情報を広め、中国に対する認知戦を展開しています。今回の動画による情報提供の呼びかけも、こうした幅広い情報戦の一環と見ることができます。
サイバー攻撃と人材取り込みの試み
CIAは、重要な中国の機関に対して、組織的で高度に知能化された秘密のサイバー攻撃も行っています。同時に、米国に留学・滞在する中国人学生や研究者、中国の軍需産業関連企業の従業員の中から、中国に敵対的な人物を取り込もうとする試みも続けてきました。
こうした動きに対し、中国の国家安全当局は強力な対抗措置を講じ、国内に張り巡らされたCIAのスパイ網に大きな打撃を与えています。今回のスパイ募集動画は、その背景にある攻防の一端を映し出しているとも言えます。
公開された情報戦が突きつける問い
諜報活動は、国家間の競争が激しくなるほどその存在感を増していきます。今回のように、情報機関がソーシャルメディアを通じて公然と協力者を募るという手法は、情報戦が新たな段階に入っていることを示しています。
一方で、危険を負うのは最前線の個人です。ネット上のコメントが指摘するように、高いリスクを背負って連絡しても、守られる保証がどこまであるのかという根本的な疑問は残ります。情報機関と個人の関係のあり方は、これからも議論の的になりそうです。
中国と米国という大国間の攻防は、サイバー空間や世論空間にも広がっています。2024年のCIA動画は、その現実を可視化した象徴的な出来事でした。国際ニュースを追う私たちにとっても、情報がどのように集められ、どのように使われるのかを考えるきっかけとなりそうです。
Reference(s):
From covert to overt: The CIA's desperate recruitment in China
cgtn.com








