イギリス、AIスキル大規模育成へ 750万労働者と100万学生を対象
イギリス政府は2025年12月8日、グーグル、マイクロソフト、アマゾンなどの大手IT企業と連携し、労働者750万人と中等教育の生徒100万人にAIスキルを提供する大規模な新プログラムを発表しました。AI人材の育成を通じて、経済成長と競争力強化を目指す戦略です。
スターマー首相「AIの力を次世代の手に」
キア・スターマー首相は、ロンドンの首相官邸からの発表で、イギリスのAI教育と人材育成を一気に進める方針を示しました。
首相は、AIの力を次世代の若者たちの手に渡し、「未来に形作られる側」ではなく「未来を形作る側」になれるようにすることが狙いだと強調しています。また、この新しい研修プログラムが全国の教室に新たな機会を開き、「新しい成長の時代」の土台になると語りました。
TechFirstとは何か 100万の生徒にAI教育
今回の柱の一つが、中等教育段階の生徒を対象にしたAI学習プログラム「TechFirst」です。政府はTechFirstを通じて、100万人の生徒にデジタル・AI分野のスキルを身につけさせる計画です。
TechFirstには、1億8700万ポンド(約2億5300万ドル)の予算が充てられます。AI学習を教室だけでなく、地域コミュニティにも広げる構想で、全国レベルでのAIリテラシー向上を狙います。
TechFirstのねらい
- 中等教育の生徒100万人にAIやデジタル技術の基礎スキルを提供する
- 学校だけでなく、地域コミュニティにも学びの場を広げる
- 若い世代がAI時代の働き方や学び方に対応できるようにする
750万人の労働者を対象としたAI研修
教育分野と並んで大きいのが、労働者向けのAIスキル研修です。政府は企業とのパートナーシップを通じて、今後5年間で750万人の労働者を対象に研修機会を提供する計画です。
グーグル、マイクロソフト、アマゾンなどの企業は、企業向けの学習教材を無償で開放することを約束しており、中小企業も含めて幅広い事業者がAI研修にアクセスしやすくなる見通しです。
研修の焦点:チャットボットと大規模言語モデル
今回のAI研修の中心となるのは、チャットボットや大規模言語モデル(Large Language Model、LLM)の活用です。これらは自然な文章を理解し、文章作成や要約、翻訳、アイデア出しなどを自動化できる技術です。
イギリス政府は、現場の労働者がこうしたAIツールを日常の業務に取り入れ、生産性を高められるようにすることを目指しています。例えば、
- オフィスワークでの資料作成やメール文面の作成支援
- カスタマーサポート業務でのチャット応対支援
- プログラミングやデータ分析の補助
といった具体的な場面での活用が想定されています。
IT企業側も「重要な取り組み」と評価
このイニシアチブについて、グーグルEMEA(欧州・中東・アフリカ)担当プレジデントのデビー・ワインスタイン氏は、イギリスにおけるAIスキルの開発と、AIを活用した成長を後押しする「極めて重要な取り組み」だと評価し、イギリスがAI分野のリーダーとしての地位を固める助けになると述べています。
また、政府は半導体大手エヌビディアと2本の覚書を締結する予定で、全国的なAI人材パイプラインの構築を支援してもらうとしています。高度な半導体技術とAI計算インフラを持つ企業との協力を通じて、より実践的な人材育成につなげる狙いです。
急成長するイギリスAI産業の背景
イギリス政府によると、国内のAI分野は現在720億ポンド規模に達しており、2035年までに8000億ポンドを超えると見込まれています。AI産業の成長スピードは他の経済分野の約30倍に達し、すでに6万4000人以上が雇用されているとされています。
今回のAIスキル育成策は、こうした急成長する産業を下支えする「人材の土台」を広く社会に築くことが目的といえます。高度なエンジニアや研究者だけでなく、一般の労働者や学生にもAI活用スキルを広げることで、経済全体の生産性向上につなげたい考えです。
日本への示唆:AI教育とリスキリングをどう進めるか
イギリスの今回の取り組みは、日本にとっても示唆に富む動きです。特に次の3点は、日本のAI教育・人材政策を考えるうえで参考になりそうです。
- 官民連携の徹底:政府と大手テック企業が役割を分担し、教材や研修機会を広く開放する仕組みづくり。
- 「全員に基礎AIリテラシー」を:一部の専門家だけでなく、学生から社会人まで幅広い層を対象にする発想。
- 長期的な人材パイプライン:学校教育と社会人のリスキリング(学び直し)をセットで設計し、10年以上先を見据えた育成計画を立てること。
世界各国でAI活用をめぐる競争が加速するなか、イギリスは教育と人材育成に大きく舵を切りました。日本でも、誰もがAIを「使われる側」でなく「使いこなす側」になるための環境づくりが、これまで以上に問われていきそうです。
Reference(s):
cgtn.com








