量子コンピュータを「身近な存在」に。Quantum Motion社が1.6億ドルを調達し低コスト化へ挑戦
究極の計算能力を持つとされる量子コンピュータ。その実用化に向けた最大の壁である「コスト」と「規模」の課題を、既存の半導体技術で突破しようとする動きがあります。
シリコンチップの技術で「低コスト」を実現
ロンドンを拠点とするQuantum Motion社は、小型で安価、かつエネルギー効率に優れた量子コンピュータの開発に向け、1億6000万ドル(約240億円)の資金を調達したと発表しました。
従来の量子コンピュータ開発では、超伝導体やレーザーを用いた特殊な手法が主流でしたが、これらは装置の大型化や維持コストの高騰が課題となっていました。対してQuantum Motion社が採用したのは、スマートフォンやノートPCに使われている「標準的なシリコンチップ製造技術」を応用するというアプローチです。
「逆転の発想」で挑む量子ビットの量産
量子コンピュータの心臓部となるのが「量子ビット(qubit)」です。一般的なコンピュータのビットが「0か1か」のどちらかであるのに対し、量子ビットは「0と1の両方の状態を同時に持つ」ことができるため、複雑な計算を圧倒的なスピードで処理できます。
しかし、この量子ビットを数千、数万と並べてスケールアップさせることは極めて困難でした。そこで同社は次のような戦略を立てています。
- 既存技術の活用:すでに数百万個単位で量産されているトランジスタをベースにする。
- 最小限の適応:トランジスタを量子ビットに変えるために必要な「最小限の変更」は何かを追求する。
- 電子スピンの操作:トランジスタの隙間に単一の電子を閉じ込め、磁場で操作する「電子スピン」コンセプトを採用する。
実用的な価格帯への道筋
同社は製造パートナーであるGlobalFoundries社のチップを用いることで、この手法を実用化できると考えています。CEOのジェームズ・パレス=ディモック氏は、このアプローチによって、有用な量子コンピュータを1,000万ドルから2,000万ドル(約15億〜30億円)という比較的低コストで実現できる可能性に言及しています。
今回の資金調達には、DCVCやKembaraが共同で主導し、英国ビジネスバンクやポルシェ・オートモービル・ホールディングなどの多様な投資家が参加しました。これは、量子コンピューティングが単なる研究段階から、産業的な実装段階へと移行しつつあることを示唆しています。
これまで「夢の技術」として遠い存在だった量子コンピュータが、私たちが日常的に使っているシリコンチップの延長線上で形になる。そんな未来が、少しずつ現実味を帯び始めています。
Reference(s):
Quantum Motion raises $160 million to build cheaper quantum computer
cgtn.com