米下院が大型減税・歳出法案可決 国債36兆ドル超と低所得層への影響
米国の下院は、ドナルド・トランプ大統領が掲げる大型税制・歳出法案「One, Big, Beautiful Bill Act」を僅差で可決しました。減税と歳出拡大を同時に進めるこの米国ニュースは、記録的な国債残高と格差拡大の懸念が交錯する動きとして、国際ニュースでも大きな注目を集めています。
米下院でぎりぎり可決 215対214の一票差
法案は、与党・共和党の賛成215、反対214という極めて僅差で下院を通過しました。わずか一票差での可決は、トランプ政権の税制・財政運営をめぐり、議会内でも賛否が鋭く割れていることを示しています。
この法案は今後、上院での審議に送られ、両院を通過すればトランプ大統領が署名し、成立する見通しです。
法案の中身:減税と歳出増、その裏で削られる社会保障
今回の大型法案は、トランプ政権が掲げる減税と安全保障強化を前面に打ち出しつつ、社会保障分野では大胆な削減を伴う構造になっています。
2017年の減税を恒久化、新たな減税措置も
- トランプ氏の第1期政権だった2017年に導入された法人税・個人所得税の減税を延長
- チップ収入、残業代、自動車ローンの利子などに対する新たな減税措置を追加
これにより、企業や高所得者だけでなく、一部の労働者にとっても税負担は軽くなる一方、その財源をどう確保するかが大きな論点となっています。
国防費と「不法移民対策」に追加資金
法案は、国防費を増額するとともに、いわゆる不法移民対策のための予算も拡充します。トランプ氏が選挙戦で掲げてきた公約を反映した形で、安全保障と国境管理への支出は優先されています。
バイデン前大統領のクリーンエネルギー優遇を撤回
一方で、ジョー・バイデン前大統領が推進してきたクリーンエネルギー関連の税優遇措置の一部は撤廃されます。民主党のチャック・シューマー上院少数党院内総務は、共和党が石油・ガス産業に近すぎるとして、「風力や太陽光など再生可能エネルギーの発展を損なう」と批判しています。
メディケイドや食料支援の対象を縮小
最も強い反発を呼んでいるのは、低所得層向けの社会保障プログラムの見直しです。
- 低所得者向け医療保険「メディケイド」の受給資格の基準を引き上げ
- 低所得世帯向けの食料支援(フードスタンプなど)の対象を縮小
財政支出の抑制を名目としたこれらの措置により、「支援を必要とする人々から資源を奪う」との批判が広がっています。
専門家が警鐘 債務は3兆ドル増との試算
政策シンクタンク「経済政策研究センター」のディーン・ベイカー上級エコノミストは、この法案によって「2017年減税が期限切れを迎える前提のベースラインと比べ、債務が約3兆ドル増える」と指摘します。
これは、法案に盛り込まれた減税や歳出増に対し、同時に示された歳出削減だけでは到底相殺できないという見立てです。超党派の財政監視団体「責任ある連邦予算委員会」のマヤ・マクギニアス会長も、下院の財政調整の枠組みについて「財政規律への侮辱」であり、「債務に3兆ドル以上を上乗せする」と厳しく批判しました。
低所得層と「トランプ支持層」に跳ね返る負担
今回の米国税制・歳出法案は、誰に負担がのしかかるのかという点でも議論を呼んでいます。
米議会予算局(CBO)の試算によると、この法案が成立した場合、所得分布の下位1割の世帯が利用できる資源は減少する一方、上位1割の世帯の資源は増加すると見込まれています。いわば、低所得層から高所得層への再分配が起きる形です。
シューマー氏は、メディケイドと食料支援の削減によって「食料支援拠点や地方の病院が閉鎖に追い込まれる」と警告。農村部や地方を中心に、生活インフラそのものが揺らぎかねないと訴えています。
ブルッキングス研究所のダレル・ウェスト上級研究員も、「メディケイドの削減の多くは共和党の地盤を直撃する」と分析し、「そうした地域の住民はメディケイドに依存しており、多くの人が支出削減で打撃を受ける可能性が高い」と述べました。
トランプ氏は、前政権期のインフレで打撃を受けた労働者階級の有権者を助けると訴えてきましたが、批判者は「今回の法案は、むしろトランプ支持層の懐を痛める」とみています。ウェスト氏も「それはトランプ氏にとって、彼に投票した人々との関係を難しくするだろう」と指摘します。
国債36.2兆ドル超 市場は格下げと金利上昇に反応
最新の米財務省のデータによると、米国の国債残高はすでに36兆2千億ドルを超えています。急速に膨らむ債務は、市場と格付け機関にとって大きな懸念材料となっています。
格付け会社ムーディーズは最近、米国のソブリン格付けを最上位のAaaからAa1へと一段階引き下げました。その理由として、国債残高の増加と利払い費の上昇への懸念が挙げられています。
米国債市場も神経質な値動きが続いており、長期金利は上昇基調です。木曜日には30年物国債の利回りが一時5.15%まで上昇し、4月の安値から約0.7ポイント上振れしました。投資家が米国の財政見通しに不安を抱き、より高い利回りを求めていることの表れといえます。
米連邦準備制度理事会(FRB)のクリストファー・ウォラー理事も、米国の財政赤字が近年2兆ドル規模に達している現状を「明らかに持続不可能」と表現し、市場は政府に「より高い財政規律」を期待していると指摘しました。投資家が米国資産を保有するため、今後も高い利回りを要求し続ける可能性があると警告しています。
今後の焦点:上院審議と「財政規律」をどう確保するか
今回の法案はすでに上院へ送付されており、今後は修正を含む攻防が予想されます。減税拡大と歳出削減、そして膨らむ国債残高をどう両立させるのかは、米国のみならず世界の金融市場が注視するテーマです。
日本の読者にとっても、米国の財政と国債市場の行方は、為替や株式市場、ひいては自らの資産形成にも影響し得る国際ニュースです。税制と社会保障、景気刺激と財政規律という難しいバランスを、米国政治がどう取っていくのか。今後の上院審議と市場の反応を冷静に追っていく必要があります。
Reference(s):
U.S. bill blasted for raising debt, cutting aid for low income groups
cgtn.com








