NATO防衛費5%目標で亀裂 イタリア・スペインと積極派の溝
今週開かれる北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議を前に、防衛費を国内総生産(GDP)の5%まで引き上げる新たな目標をめぐり、加盟国の足並みの乱れが鮮明になっています。国際ニュースとして注目されるのは、NATOの結束が揺らぐ中で、ヨーロッパ諸国の安全保障と経済のバランスがどう変わっていくのかという点です。
NATOが掲げる「GDP比5%」とは何か
今回のNATO首脳会議では、これまでの「防衛費GDP比2%」という目安を大きく上回る新たな目標が議論されています。
- 防衛費:GDP比2%から3.5%へ引き上げ
- 安全保障関連(サイバー防衛やインフラ防護など)にさらに1.5%
- 合計でGDP比5%を対NATOコミットメントの新たな目標とする構想
この5%目標は、アメリカのドナルド・トランプ大統領が求めている水準でもあり、今週の首脳会議の最大の争点になっています。
イタリア:賛成しつつ「10年かけて」達成
イタリアのジョルジャ・メローニ首相は月曜日、イタリアとしてGDP比5%という新たなNATO目標を受け入れる考えを示しました。ただし、即時ではなく「10年」という時間軸を置いての達成を想定しています。
高い公的債務を抱えるイタリアは、各国が「安全保障関連支出」に何を含めるかを定義できるようにすることで、一定の柔軟性を確保したと説明しています。メローニ首相は次のように強調しました。
「これはイタリアが守るつもりの重要なコミットメントです。わたしたちは自国を弱くし、防衛できない状態のままにはしません」
形式的には5%目標に賛成しつつも、達成時期や中身の定義で余地を残した対応と言えます。
スペイン:2.1%で「線を引く」姿勢
一方、スペインはより慎重です。日曜日、ペドロ・サンチェス首相は、NATOとの合意として軍事費をGDP比2.1%にとどめる方針を表明しました。
サンチェス首相は会見で、スペインがNATOから求められる人員、装備、インフラを確保するには2.1%が必要だとしたうえで、「それ以上でも、それ以下でもない」と述べました。先週には、5%目標そのものを正式に拒否しており、その姿勢は明確です。
これは、NATOの新たな共通目標に対して「必要な分は負担するが、上限も自ら決める」というメッセージでもあります。
エストニアなど積極派:早期達成と同盟の「牽引役」
こうした慎重派とは対照的に、より攻めの姿勢を見せている国もあります。その一つがエストニアです。
- エストニアは来年にもGDP比5%を達成すると表明
- 他の加盟国にも「5年以内」の達成を促している
エストニアのような積極派は、同盟としての抑止力と防衛力を強化するには、早期に高い水準の防衛費を確保すべきだと主張しています。しかし、イタリアやスペインのように財政や社会保障への影響を重く見る国々との間で、溝は簡単には埋まりそうにありません。
専門家の視点:目的なき「5%」は政治的ジェスチャーに
今回の防衛費をめぐる対立は、単なる数字の議論にとどまらず、NATOという同盟の「方向性」そのものが共有できているのかという根本的な問いにもつながっています。
国際安全保障を専門とするバーミンガム大学のステファン・ウォルフ教授は、次のように懸念を示しています。
「もしNATOが自らの主要な目的について合意できないのであれば、たとえ軍隊に十分な予算があったとしても、共通の方向性を欠いたままになります。結束がなければ、5%という目標も、時間稼ぎのための政治的ジェスチャーに過ぎなくなるでしょう」
ウォルフ教授はさらに、たとえ加盟国が5%の目標を達成したとしても、優先順位付けや防衛産業の協調した発展がなければ、その支出は「戦略的な成果を生まない財政インフレ」になりかねないと警告しています。
欧州経済への圧力とNATOの結束
中国外交学院の李海東教授は、ヨーロッパのNATO加盟国にとって、防衛費の大幅な拡大は大きな挑戦になると指摘します。防衛費が急激に膨らめば、
- 財政赤字や債務の拡大
- 社会保障や教育、医療など他分野の予算圧迫
- 国内世論の反発や政治的不安定化
といった形で、経済や社会の発展に重い負担をもたらしかねないからです。李教授は、短期的に5%目標を実現するのは非常に難しいと見ています。
また、各国の安全保障への不安が高まる一方で、NATOが防衛費を増やし続ける構図は、むしろ内部の対立を強める可能性があるとも指摘します。李教授は、こうした内部分裂と、それが国際社会にもたらす負の影響への認識が広がれば、NATOが現在の影響力を維持したり、強化したりすることは難しくなると分析しています。
「結束なき軍拡」をどう見るか
今回の防衛費5%をめぐる議論は、
- 安全保障の不安が高まるほど、軍事費は膨らみやすい
- しかし、同盟としての目的や優先順位が共有されなければ、支出は「数字合わせ」に終わる
- 財政・社会への負担が重くなればなるほど、国内外の結束は揺らぎやすい
というジレンマを浮かび上がらせています。
今週のNATO首脳会議では、最終的にどのような形で防衛費の目標が示されるのかが注目されます。ただ、その合意内容以上に重要なのは、「何のための防衛費なのか」「どのように協調して使うのか」という問いに、加盟国がどこまで共通の答えを見いだせるかという点だと言えそうです。
国際ニュースを追う私たちにとっても、数字そのものより、その裏側にある優先順位や価値観に目を向けることが、これからの世界情勢を考えるヒントになりそうです。
Reference(s):
Disunity in NATO: Member states split on push for 5% defense spending
cgtn.com








