軍事的緊張下でも米国・イラン協議が続く理由——仲介役オマーンと「最大圧力」外交
軍事的緊張が高まる中でも、米国とイランの間接協議(オマーン仲介)が再開し、両者は「成果は限定的でも対話を続ける」方向を選びました。決裂が即リスク増につながり得る局面で、何が話し合われ、どこが難所なのかを整理します。
今回の協議、何が「新しい」のか
形式面では大きな変化はありません。イランは従来通り、米国との直接交渉(対面)を避け、今回も間接方式が続いています。一方で最大の違いは「状況」です。中国・寧夏大学の中国アラブ研究院院長、李紹先氏は、今回が強い軍事的対立と瀬戸際の駆け引きを背景に行われている点を指摘します。破綻すれば短期間で衝突へ傾きかねないため、国際的な注目が一段と高まっているという見立てです。
第1ラウンドで起きたこと:細部ではなく「枠組み」
李氏によれば、第1ラウンドの中心は詳細条件ではなく、手続き・議題・交渉の枠組みづくりでした。イランが大枠の提案を示し、米国側もそれに応じる形で応答。その後、双方はいったん持ち帰り、テヘランは国内調整、ワシントンはドナルド・トランプ大統領への報告に入ったとされています。
この「持ち帰りと再協議」自体が、対話継続の意思を示すサインでもあります。勢いが続けば、次のラウンドは早ければ来週初めにも行われ得る、というのが李氏の見通しです。
開催地はどこに?カギを握るオマーンの「信頼」
今後の会場として最有力なのは引き続きオマーンです。李氏は、イランが他の地域プレーヤーよりもオマーンを相対的に信頼していること、そしてテヘランにとって本件が「米国との二国間課題」であり、影響力の大きい国々を広く巻き込むほど対イラン圧力が増す、という計算があると述べます。
イラン側の目的は明確で、米国の制裁緩和が最重要のゴールだとされています。
最大の難所:弾道ミサイルは「レッドライン」
交渉が進んだ場合でも、最大の争点になり得るのがイランの弾道ミサイル計画です。米国は、弾道ミサイルが核兵器の運搬手段になり得るとして交渉対象に含めるべきだと主張してきました。これに対しイランは長年抵抗し、2015年の核合意ではミサイルを交渉枠外に置くことに成功した、という経緯が語られています。
また、イスラエルはイランのミサイル能力を「存立に関わる脅威」と見て、この点でより強硬だというのが李氏の見立てです。この温度差は埋めにくく、今後も高いハードルとして残りそうです。
軍事圧力と外交が同時進行する理由:「最大圧力」で譲歩を迫る
地域での軍事展開の積み増しと外交を同時に進める米国の姿勢は、トランプ氏の流儀として「最大圧力の下で交渉する」スタイルに合致すると李氏は述べます。部隊展開や追加制裁は、イランに譲歩を促すための威圧・強制の手段という位置づけです。
ただし、イランは過去にもより強い米国の軍事圧力を経験しており、今回の構図は前例がないわけではなく、圧力が「史上最高水準」というわけでもない、という評価も示されています。
「体制は弱っているのか」——李氏の見立ては否定的
一部には、イランの宗教指導体制がかつてないほど脆弱だという見方もあります。しかし李氏は、イランが1979年以降で最も弱い局面にあるとは考えにくいとし、内部の結束や統治能力、外圧への反発が生むナショナリズムが体制を下支えしていると分析します。
経済的困難が中間層に強く影響している一方で、体制を倒し得る組織化された反対勢力は見当たらず、外圧はむしろ正統性を補強し得る、という見取り図です。
米国の「中東戦略」:撤退と再調整、その中でのイラン対応
李氏は、トランプ氏の対イラン姿勢は短期の内政要因というより、米国の国家安全保障と世界戦略の調整に基づくと見ます。キーワードは「撤退(retreat)」と「再調整(recalibration)」です。
- 撤退:全面撤収ではなく、欧州や中東のように長年コストを投じてきた地域で、関与を戦略的に縮める。
- 再調整:国内課題の優先、ラテンアメリカでの影響力強化、アジア太平洋への資源集中など、より重要とみなす領域へ重心を移す。
この枠組みから見ると、「中東への投資は増やしたくない」のに「イランへの圧力は続ける」という一見矛盾した行動も、同居し得ます。李氏は、米国の中東政策を次の3段階で説明します。
- これ以上の軍事・政治投資を大きく増やさない。
- 地上部隊を出さない(イラクやアフガニスタンからの撤収が既にあり、イラクやシリアでもさらなる縮小が起こり得る)。
- 主導責任を負い続けない(同盟国が前に出る場合、米国は支援役を好む)。
それでも中東が戦略的重要性を持つ以上、米国は「空白」が生まれることを避けたい。李氏は、そのためにイランを封じ込め、イスラエルを強く支援し、イスラエルとアラブ諸国の関係改善を後押しすることが、地域バランスの固定化につながると述べます。固定化できれば、米国はより安心して戦略的縮小へ進める、という発想です。
妥協の余地はどこにあるのか
李氏は、トランプ氏がペルシャ湾で長期の対立に深く巻き込まれる意図は薄く、取引的な「一回勝負(one-shot deal)」に近いと表現します。その分、妥協の余地は残るという見方です。
ただしイランがミサイル計画を手放す可能性は低く、国家の生存に関わる核心と位置づけられています。一方で、米国が意味のある制裁緩和を提示するなら、イランがウラン濃縮や遠心分離機の生産など、核開発の一部要素を停止・一時凍結する可能性はあり得る、というのが李氏の見通しです。
緊張が高まるほど、交渉は「何を得るか」だけでなく、「何を避けるか」という現実的な計算に引き寄せられます。今回の間接協議が続いている事実は、両者が少なくとも当面は、最悪のシナリオを回避する道を手放していないことを示しています。
Reference(s):
cgtn.com








