国際ニュース解説 米国の反多国間主義的通商政策は世界の最大リスクか
2024年の米大統領選を挟んでも、米国の通商政策は多国間主義から離れたままかもしれない──そのことが世界の貿易秩序にとって最大のリスクになりつつあります。
大統領が誰でも変わりにくい「反多国間主義」
2024年11月5日の米大統領選では、誰がホワイトハウスに入るかが注目されましたが、通商政策という観点では、根本的な路線転換は起きにくいと見られてきました。焦点は、世界貿易機関(WTO)を中心とする多国間貿易体制に対して、米国がとってきた「反多国間主義的」な姿勢が続くかどうかです。
この路線は、一国の利益を優先し、国際ルールよりも自国の裁量を重視する方向です。その結果、各国・地域が共通のルールのもとで取引するという、多国間主義の基盤が揺らぎつつあります。
トランプ政権が仕掛けた関税攻勢とWTO機能のまひ
出発点となったのが、前政権だったドナルド・トランプ氏の通商政策です。「アメリカ第一」を掲げた同政権は、WTOを中心とする多国間貿易体制に対し、正面から挑むかたちで一方的な関税措置を次々と打ち出しました。
- 中国からの輸入3500億ドル超に対する大規模な追加関税
- 世界各国からの鉄鋼・アルミ製品に対する関税
- WTOの上級委員会が機能しない状態に追い込まれるほどの圧力
米通商代表部(USTR)が2018年に公表した大統領通商政策報告では、現在の多国間貿易ルールは「米国を標的としている」とまで表現されました。その後、米中間の貿易は大きく落ち込むことになりました。
さらに2024年の選挙戦において、トランプ氏は、中国からの輸入に60%の関税、世界中からの全ての輸入に一律10〜20%の関税を課すと公約し、関税攻勢をいっそう拡大させる姿勢を示しました。
バイデン政権も関税維持、「価値」を軸にした分断へ
一方、ジョー・バイデン氏は就任当初、「多国間主義への回帰」を掲げましたが、実際には前政権の関税措置をそのまま維持し、中国からの太陽光パネル、リチウム電池、電気自動車(EV)などに新たな関税を上乗せしています。
加えて、バイデン政権は「レジリエント(強靱)なサプライチェーン」や「小さな庭に高い柵」といった戦略を打ち出し、価値観や制度が近い国・地域との間でサプライチェーン(供給網)と投資を再構築しようとしています。
これは表向きには安全保障やリスク分散を目的としていますが、実際には「価値」を基準に世界貿易を分断し、特定の国・地域を排除する方向に働きかねません。結果として、世界の貿易システムが複数のブロックに割れ、WTOのような共通のルールの役割が縮小していくリスクがあります。
世界にとってのリスク:貿易の細分化と不確実性
このような米国の反多国間主義的な通商政策は、次のような形で世界経済に影響を与えます。
- 関税の応酬が長期化し、企業にとって貿易コストと不確実性が高まる
- サプライチェーンが政治的な線引きで再編され、効率性が損なわれる
- WTOの紛争解決機能が弱まることで、小国・中堅国がルールに頼れなくなる
- 気候変動対策技術など、本来は世界で広く共有されるべき分野でも、技術や投資がブロックごとに囲い込まれる
特に、WTOの上級委員会が事実上まひしている状況では、各国が通商紛争をルールに基づいて解決する道が狭められ、一方的な制裁や報復措置に傾きやすくなります。その中心にある大国が米国であることは、世界全体にとって大きなリスクと言えます。
日本とアジアにとっての意味
輸出に依存し、多国間のルールに基づく自由貿易から大きな恩恵を受けてきた日本やアジア諸国・地域にとっても、この変化は無視できません。
米国が価値観や安全保障を理由に貿易や投資を選別する度合いを強めれば、日本企業は次のような難しい判断を迫られる可能性があります。
- サプライチェーンを米国向けとその他の市場向けに二重化するコスト増
- 特定の国・地域との取引を続けるか、米国市場へのアクセスを優先するかという選択
- WTOルールが機能しにくい中で、通商摩擦にどう対応するかという戦略の再構築
同時に、多国間主義を重視する立場からは、日本やアジアの国々・地域が、地域的な枠組みやWTO改革を通じて、ルールに基づく開かれた貿易秩序を支える役割をどこまで担えるかが問われています。
これから注目したいポイント
2025年の終わりにさしかかるなかで、世界経済の先行きは依然として不透明です。その中で、米国の通商政策をめぐって私たちが注目すべきポイントを整理すると、次の3つにまとめられます。
- 大統領が誰でも続く可能性が高い路線かどうか:政権交代に左右されにくい通商戦略であれば、企業や各国は長期的な前提として織り込む必要があります。
- WTOをはじめとする多国間ルールの立て直し:上級委員会の機能回復を含め、ルールに基づく紛争解決の枠組みをどう維持・強化するかが鍵です。
- ブロック化の中で日本やアジアがとる戦略:特定の陣営に全面的に寄るのではなく、多国間主義を基盤としつつ、現実のリスクにも備えるバランス感覚が求められます。
米国の反多国間主義的な通商政策は、選挙結果だけでは大きく変わらない可能性があります。その分、他の国々・地域がどのように多国間主義を守り、アップデートしていくかが、これまで以上に重要になっていると言えるでしょう。
Reference(s):
US counter multilateralism trade policy: Gravest danger to the world
cgtn.com








