ハリウッドに関税ショック トランプ政権の外国映画課税案が招く波紋
米国のドナルド・トランプ大統領が、外国で製作された映画への新たな関税導入を指示したことで、ハリウッドや各国政府に「報復」の懸念が広がっています。世界の映画ビジネスとサービス貿易の構造を揺さぶりかねない動きとして注目されています。
何が起きているのか
トランプ大統領は今週、自身のSNS「Truth Social」に、外国映画への新たな課税プロセスを「直ちに開始する」よう商務省と通商代表に指示したと明らかにしました。投稿では「WE WANT MOVIES MADE IN AMERICA, AGAIN!(もう一度、アメリカで映画を作りたい)」と強調しています。
大統領は「米国の利益を守る」ことを掲げていますが、ホワイトハウスのクシュ・デサイ報道官は、映画への関税計画について「最終的な決定はまだ行われていない」と説明しており、現時点では構想段階です。
それでも市場は敏感に反応しました。週明けの米株式市場では、メディア・エンターテインメント大手の株価がそろって下落。Netflixやワーナー・ブラザース・ディスカバリーは約3%安、パラマウント・グローバルやウォルト・ディズニーも約2%下げて取引を始めました。
なぜ映画への関税が大問題なのか
映画や音楽、ストリーミングなどの「サービス」は、米国が大きな黒字を抱える分野です。アナリストらは、映画への関税がこのサービス貿易の強みを、逆に弱点へと変える可能性を指摘しています。
特に映画は、ハリウッド作品が世界中の映画館で上映され、配信されることで巨額の収入を生む「看板産業」です。ここに政治的な関税が乗れば、他国が対抗措置を取りやすくなり、結果的に米国側の損失が膨らむリスクがあります。
豪州・NZも対抗姿勢 各国が取りうる「報復」
米国の構想に対し、早くもオーストラリアやニュージーランドの政府関係者は、自国の映画産業を守るために対抗措置をとる考えを示しています。
中国対外経済貿易大学の崔凡教授は、中国メディアグループ(CMG)に対し、米国が映画サービスに関税を課せば「各国の報復を誘発しうる」と指摘します。具体的には、欧州連合(EU)、カナダ、日本など米国に多くの作品を輸出している国が、次のような政策を取る可能性があるといいます。
- 自国映画を優先する「ローカル・ファースト」政策の強化
- 米国映画の輸入枠(クオータ)の制限
- 米国映画の上映に追加税や特別料金を上乗せ
こうした措置は、ハリウッド映画の海外興行収入を直接的に押し下げる可能性があります。
「すでに危機の業界に追い打ち」 現場からの危機感
映画業界の現場からは、懸念を通り越して「壊滅的だ」という声も上がっています。
映画専門誌「ハリウッド・リポーター」の欧州総局長スコット・ロックスボロー氏は、CMGの取材に対し次のように語っています。
「映画業界は今もすでに危機にあります。そこにさらに、関税という追加コストが乗れば、業界全体に本当に壊滅的な影響を与えかねません。そこから前向きなものが生まれるとは、とても思えません」と述べ、関税案に強い懸念を示しました。
ロックスボロー氏によると、米国は映画分野で大きな貿易黒字を抱えており、多くの欧州諸国やカナダでは、ハリウッド作品が興行収入の70〜80%を占めています。こうした市場で米国映画に対する報復関税が導入されれば、
- 地元の映画館の収益が圧迫される
- ハリウッド作品の上映本数が減る
- ひいてはハリウッドの世界的な支配力が揺らぐ
といった連鎖が起きる可能性があります。
「報復が我々の業界を殺す」 元商務省高官の警鐘
米商務省の元高官ウィリアム・ラインシュ氏も、英紙ガーディアンに対し、今回の関税案が「自国の首を絞める」ことになりかねないと警鐘を鳴らしています。
ラインシュ氏は「報復は我々の業界を殺すことになる。我々には得るものより失うものの方がはるかに多い」と述べ、報復措置によるダメージが米国側に大きく跳ね返ると警告しました。
関税は短期的には「国内産業保護」の道具と受け止められがちですが、グローバルなサプライチェーンと国際市場に深く組み込まれた映画ビジネスの場合、報復合戦のダメージが自国に戻ってくる構図がより鮮明になりつつあります。
日本と世界の観客への影響は?
日本を含む各国の観客にとって、関税は一見遠い話に聞こえるかもしれません。しかし、もし主要市場で米国映画への追加コストが導入されれば、次のような影響が生じる可能性があります。
- 大作映画の製作本数の減少
- 公開時期の遅れや、公開規模の縮小
- チケット価格や配信料金への転嫁
- ハリウッド依存から、各国のローカル作品へのシフト加速
とくに日本は、ハリウッド作品と国内アニメ・映画が共存する市場です。ハリウッド側の動きは、日本の配給会社や映画館、さらには配信プラットフォームのビジネスモデルにも影響を与え得ます。
これからの焦点──「関税の中身」と「各国の出方」
現時点(2025年12月8日)で、映画への関税案は詳細も含めてまだ固まっていません。今後の焦点となるポイントは、次のような点です。
- 米政権が最終的に関税導入を正式決定するかどうか
- 実際の税率や対象となる「外国映画」の範囲
- 欧州、カナダ、日本、オーストラリア、ニュージーランドなど主要市場の対応
- ハリウッド各社が、製作地や投資先をどう見直すか
映画は「文化」であると同時に、「巨大なサービス貿易」でもあります。トランプ政権の関税構想は、その二つの顔を持つ産業をどこまで揺さぶるのか。日本の観客にとっても、これからの動きを静かに見守りつつ、自分たちがどんな作品を選び、支えていくのかを考えるきっかけになりそうです。
Reference(s):
Hollywood on edge: Filmmakers call Trump's tariff plan 'disastrous'
cgtn.com








