EU、米国に最大930億ユーロの対抗関税案 交渉継続も緊張高まる
欧州連合(EU)が、米国との貿易協議が決裂した場合に備え、最大930億ユーロ(約1090億ドル)分の米国製品に対する対抗関税案を承認しました。2025年の国際ニュースの中でも、EU・米国間の通商摩擦は世界経済や東アジアに広く影響しうる重要なテーマです。
EUが承認した「930億ユーロ対抗関税」とは
EU加盟国は、米国との貿易協議が不調に終わった場合に発動しうる対抗関税として、930億ユーロ規模の関税リストを承認しました。対象は米国からの幅広い輸入品で、EU側がワシントンとの交渉で使う「切り札」となります。
背景には、トランプ米大統領が8月1日から30%の追加関税を適用すると表明したことがあります。EUの行政執行機関である欧州委員会は、こうした高関税の発動を避けるため、あくまで交渉による解決を最優先すると強調してきました。
一方で欧州委員会は、万一に備えた対抗措置の準備も並行して進めました。21億ユーロ分と72億ユーロ分、合わせて93億ユーロ(日本語の位取りでは約930億ユーロ)規模の2つの案を統合し、単一のリストとしてまとめたうえで加盟国に提示しています。
対抗措置は少なくとも8月7日までは発動しない仕組みとされ、協議のための時間を最大限確保する設計となっていました。EUは、トランプ大統領による度重なる関税方針の発表に直面しながらも、これまで実際の対抗関税発動は見送ってきました。4月には第1弾の対抗措置が認められたものの、交渉の余地を残すため即座に凍結されています。
15%の包括合意案 日本との枠組みに似たモデル
EU外交筋によると、EUと米国は広範な貿易合意に向けて協議を続けており、その骨格となっているのが「15%包括関税」の枠組みです。これは、EUから米国に輸出される幅広い品目に対し、一律15%の関税を課すという案で、米国が日本と結んだ枠組み協定に似たモデルとされています。
この案が実現すれば、自動車や医薬品などの主要産業が15%の関税の対象となる一方、それは従来の関税(平均で5%弱)に上乗せするのではなく、一本化された税率として適用されるとみられています。
一方で、航空機や木材、一部の医薬品や農産物などについては、関税対象から外す「例外扱い」とする余地も残されているとされています。産業ごとに扱いを分けることで、双方の利害調整を図る狙いがあります。
ただし、外交筋によれば、ワシントンは鉄鋼に課している50%の高関税については、現時点で引き下げに前向きな姿勢を見せていません。鉄鋼は象徴的な産業であるだけに、交渉の難しさを物語っています。最終決定権はあくまでトランプ大統領にあり、15%案が実際に採用されるかどうかは不透明なままです。
専門家が懸念する「デカップリング」のリスク
米国が追加関税を相次いで打ち出すなか、専門家の間では、欧州の主要経済が米国市場から徐々に切り離される「デカップリング(分断)」が進む可能性を懸念する声が高まっています。
ボスニア・ヘルツェゴビナの経済アナリスト、ガヴラン・イゴル氏は、ワシントンは通商政策を政治的な圧力の手段として用いていると指摘します。同氏は「これはもはや通商政策ではなく、経済的な攻撃だ」と強い言葉で批判しました。
イゴル氏は、8月1日に懲罰的な関税が発動した場合、国境をまたぐサプライチェーン(供給網)が寸断され、とりわけ規模の小さいEU加盟国の経済に深刻な打撃を与えるとみています。部品や素材の流れが滞れば、企業のコスト増や生産遅延につながり、雇用にも影響しかねません。
EUは通商戦略の「多角化」へ 東アジア、とくに中国に注目
こうした状況を受けて、イゴル氏はEUがより「主張的かつ多角的な」通商戦略に舵を切りつつあると分析します。保護主義色を強める米国市場への依存を減らし、リスクを分散する狙いです。
同氏によると、長期的な解決策は「安定性と予見可能性の高いパートナー」との連携を深めることにあります。特に東アジアは、成長力と市場規模の両方を兼ね備えた地域として注目されています。
中でも中国は、市場の大きさだけでなく、経済運営の一貫性という点で際立っているとイゴル氏は評価します。米国では政権交代のたびに通商方針が大きく変わることがありますが、中国は長期的な視点で計画を立て、数十年単位で政策を運営しているため、企業にとって将来の見通しを立てやすい環境を提供しているという見方です。
日本とアジアの読者にとっての意味
EUと米国の関税交渉は、東アジアに住む私たちにとっても無関係ではありません。自動車、医薬品、鉄鋼など、日々の生活や雇用に直結する産業に影響しうるためです。
- サプライチェーンへの影響:EU・米国間で関税が引き上げられれば、部品や完成品の流通経路が見直され、東アジアを経由した「迂回貿易」が増える可能性があります。
- 市場シフトの可能性:米国市場への依存度を下げたいEU企業が、中国や日本、韓国など東アジアの市場に重心を移す動きが強まるシナリオも考えられます。
- 通商ルールづくり:EUと米国の駆け引きは、今後の世界的な通商ルールや世界貿易機関(WTO)などの場での議論にも影響する可能性があり、長期的な枠組みが変わるきっかけになりうる局面です。
関税合戦か、バランスある協議か 2025年の焦点
EUは、30%の追加関税や鉄鋼への50%関税といった米国の措置に備えながらも、あくまで交渉による解決を優先する姿勢を崩していません。930億ユーロ規模の対抗関税リストは、関税合戦を避けるための「抑止力」としての意味合いも持ちます。
同時に、EUが東アジア、とくに中国を含むパートナーとの連携を深めようとしている流れは、2025年以降の国際経済の重心やサプライチェーンの姿を左右しかねません。読者としては、EU・米国間の通商交渉の行方とともに、EUと東アジアの関係強化がどのように進むのかを中長期的な視点で追っていくことが重要になりそうです。
Reference(s):
EU backs potential counter-tariffs on 93 billion euros of U.S. goods
cgtn.com








