越劇の舞台裏:中国の伝統オペラを未来へつなぐ女性たち
中国の伝統オペラ「越劇」を支える舞台裏では、女性俳優たちが性別の枠を軽やかに超えながら、19世紀末に生まれたこの芸能を2025年の今へとつなぎ続けています。
越劇とは何か:中国の国家級無形文化遺産
越劇(Yue Opera、別名・紹興オペラ)は、中国の五大オペラの一つとされ、中国の国家級無形文化遺産に認定されている伝統芸能です。中国東部の浙江省紹興市で19世紀末に生まれ、地元の民間の語り物や歌謡から発展してきました。
もともとは素朴な民謡から始まった越劇は、物語性のある歌芝居へと姿を変え、現在では洗練された音楽劇として知られています。抒情的な歌唱、繊細な感情表現、比較的小規模な編成で親しみやすいことなどが特徴です。
男性から女性へ、そして女性が男性を演じる舞台へ
誕生当初の越劇は、男性だけの劇団によって演じられていました。しかし1920年代になると、女性が舞台に立つようになり、この変化が越劇のスタイルを大きく変えました。次第に女性俳優が主役となり、現在では「女性が男性役を演じること」が越劇の大きな特徴になっています。
越劇が盛んなのは、浙江省や上海、江蘇省南部など、呉語と呼ばれる方言が話される地域です。こうした地域を中心に、中国各地、さらには海外の観客も魅了してきました。
呉風華という存在:若い男性役「小生」を体現する
今回紹介する舞台裏の主な登場人物が、浙江省紹興市柯橋区にある小百花越劇芸術伝承センターで活動する呉風華とその教え子たちです。
呉風華は、越劇で若い男性役を意味する「小生(シャオシェン)」の名手として知られています。代表的な演目の一つが、「バタフライ・ラバーズ」として知られる悲恋物語で、「中国版ロミオとジュリエット」とも呼ばれています。
彼女は、中国演劇界で最も権威のある賞の一つとされるプラム・ブロッサム・アワード(梅花賞)を二度受賞しており、その演技力と表現力は高く評価されています。センターでは、舞台に立つだけでなく、次世代の俳優を育てる指導者としても重要な役割を担っています。
小百花越劇芸術伝承センターの役割
呉風華らが率いる小百花越劇芸術伝承センターは、その名の通り、越劇の伝承と革新の両方を担う拠点です。長年受け継がれてきた演目や歌い回し、所作を守りつつも、現代の観客に届く表現を模索しています。
- 若い俳優の育成
- 古典演目の再構成と上演
- 新作・翻案作品への挑戦
こうした活動を通じて、越劇は「古典芸能」であると同時に、今も更新され続ける「現在進行形の舞台芸術」であり続けています。
シェイクスピアも越劇に:「マクベス」が「馬龍将軍」になる
センターの象徴的な挑戦の一つが、シェイクスピアの悲劇「マクベス」を越劇として翻案した「馬龍将軍」です。西洋の古典劇を題材にしながら、音楽、歌唱、身体表現はあくまで越劇のスタイルに基づいています。
ここでは、権力と野心、罪の意識といった普遍的なテーマが、越劇特有の抒情的な台詞回しと歌声によって語られます。観客は、よく知られた物語でありながら、まったく新しい物語として受け止めることができます。
西洋のドラマと中国の伝統オペラを組み合わせるこの試みは、越劇が単に過去を保存するだけでなく、異文化と出会うことで新しい表現を生み出していることを示しています。
グローバル時代の伝統芸能としての越劇
越劇は、地域の方言文化に根ざしながらも、中国各地、さらには国境を越えて多くの人びとを惹きつけてきました。日本でいえば、歌舞伎や能楽が外国の観客にも支持され、海外公演を通じて新たな理解を得ている姿と重ねることもできるでしょう。
2025年の今、伝統芸能は「守るべきもの」であると同時に、「変わり続けるもの」でもあります。小百花越劇芸術伝承センターの舞台裏では、若い俳優たちが性別や国境を越える役柄に挑み、古典と現代、東洋と西洋をつなぐ表現を探り続けています。
スマートフォンで世界中のコンテンツに触れられる時代だからこそ、地域に根ざした越劇のような舞台芸術が持つ「ローカルな物語」と「普遍的な感情」は、私たち自身の文化のあり方を考えるヒントを与えてくれます。
中国の伝統オペラの一つである越劇。その舞台裏で積み重ねられる日々の稽古と創作の試みは、「伝統をどう未来につなぐか」という問いに向き合う、私たちにとっても他人事ではないテーマなのかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








