人工繁殖で長江スナメリが回復傾向 希少な淡水イルカ保全のいま video poster
人工繁殖で見えてきた希望
中国の長江にすむ希少な淡水のイルカ、長江スナメリの保全で、人工繁殖技術が着実に進展し、個体数の回復につながりつつあります。絶滅危惧の野生動物を守る取り組みとして、国際ニュースとしても注目したい動きです。
長江だけにすむ「笑うイルカ」
長江スナメリは、背びれがないのが特徴の淡水性のネズミイルカで、中国の長江流域だけに生息する固有種です。中流から下流、特に長江の中部と東部の水域にだけ姿を見せます。
口元がいつも笑っているように見えることから、中国では愛らしい存在として親しまれてきましたが、その数は中国の種保護の象徴ともいわれるジャイアントパンダより少なく、より希少な存在になっています。現在は国家レベルで最高ランクの保護対象とされ、厳重に守られています。
研究拠点で進む妊娠と出産のモニタリング
中国科学院水生生物研究所のバイジイルカ館では、研究者たちが超音波画像診断の技術を使い、長江スナメリの健康チェックを行っています。体内の様子を継続的にモニタリングし、解析した結果、飼育されている個体は良好な健康状態にあると判断されています。
館では最近、2頭の雌の長江スナメリに妊娠が確認されており、来年にも赤ちゃんスナメリの誕生が期待されています。担当研究者の郝玉江・副研究員は、長江スナメリが人工環境の中でも自然に近いかたちで繁殖できていることを強調し、「妊娠から出産、その後の子どもの成長まで、自然な繁殖プロセスが問題なく進んでいることを示している」と述べています。
世界初の人工繁殖個体「タオタオ」
バイジイルカ館のスター的存在が、タオタオです。タオタオは、世界で初めて人工環境下で成功した長江スナメリの人工繁殖個体で、2005年7月5日に誕生して以来、研究者たちに大切に見守られてきました。
タオタオの成長の記録や健康データは、長江スナメリ全体の保護、生息地外での保全(エクスシチュ―保全)や飼育管理の方法を考えるうえで、貴重な基礎情報となっています。
現在、この研究所には12頭の長江スナメリが暮らしており、そのうち5頭は人工繁殖によって生まれた個体です。人工繁殖が一過性の成功ではなく、次の世代へとつながる取り組みになりつつあることがわかります。
保護区ネットワークと「中国の解決策」
長江スナメリの保全は、人工繁殖だけに頼っているわけではありません。郝副研究員によると、これまでに長江スナメリのための自然保護区が8カ所、生息地外での保全区が3カ所、長江流域に設けられています。野生下での保護と、人工環境での保全を組み合わせた取り組みは、「希少で絶滅の危機にある小型クジラ類を守るための中国の解決策」と位置づけられています。
自然保護区では、長江スナメリが本来の生息環境の中で安全に暮らせるよう、人間活動の影響を抑え、環境を整えることが目的とされています。一方、生息地外の保全区や研究施設では、人工繁殖や健康管理の技術を蓄積し、野生個体群を支える補完的な役割を果たします。
個体数の変化が示すもの
こうした取り組みの成果は、個体数の推移にも表れています。2022年に実施された総合的な調査によると、長江に生息する長江スナメリの数は1249頭と推計されました。2017年の調査時点では1012頭だったため、この5年間で明確な増加が見られたことになります。
依然として「極めて危険な」絶滅危惧種である状況は変わりませんが、減少一途だった野生動物の個体数が持ち直し、回復傾向に転じているという事実は、保護策が一定の成果を上げていることを示していると言えます。
長江生態系のバロメーターとして
長江スナメリは、中国の国家一級重点保護野生動物に指定されており、その個体数や健康状態は、長江全体の生態環境を測る「バロメーター」とみなされています。すなわち、長江スナメリが暮らしやすい川であるかどうかは、流域の水質や生態系が健全かどうかを映し出す指標になるということです。
個体数の回復傾向は、長江の環境改善が進んでいるサインとも受け取れますが、厳しい絶滅危惧の状況にあることを考えると、保護策の手を緩めることはできません。人工繁殖と自然保護区という二つの柱をどう組み合わせ、長期的に持続可能な保全体制を築いていくかが、これからの重要な課題です。
これから私たちが注目したい点
- バイジイルカ館で妊娠が確認された2頭の雌が、どのように出産と子育てを迎えるか。
- 8つの自然保護区と3つの生息地外保全区のネットワークが、今後どこまで個体数の増加につながるか。
- 長江スナメリという「バロメーター」を通じて、長江流域の環境改善がどこまで進むのか。
長江スナメリをめぐる動きは、一つの国の希少種保護にとどまらず、大河川の生態系をどう再生し守っていくかという、グローバルな問いにもつながっています。日本からも、淡水生態系や環境保全のニュースとして継続的に注視していきたいテーマです。
Reference(s):
Artificial breeding boosts critically endangered porpoise population
cgtn.com








