マラドーナ死去巡り医療チーム裁判開始 アルゼンチンで長期審理へ
サッカー界の伝説、ディエゴ・マラドーナの死をめぐり、アルゼンチンで医療チームの責任を問う裁判が始まりました。2020年の死去から4年以上を経て、同国の国際ニュースの中でも特に注目を集める審理となっています。
首都ブエノスアイレス郊外のサン・イシドロ控訴裁判所には、マラドーナの家族や弁護士団、元看護師、脳外科医、精神科医らが姿を見せました。いずれも、マラドーナの死に関して刑事責任を問われている人たちです。
4年以上を経て始まった「D10S」の裁判
裁判所の外では、多くのファンが集まり、「Justice for D10S(D10Sに正義を)」と書かれたプラカードを掲げました。「D10S」は、マラドーナの背番号10と、スペイン語で神を意味する「Dios」をかけ合わせた愛称で、1986年ワールドカップでの有名な「神の手」ゴールにも重なる言葉です。
マラドーナは、アルゼンチンでは巨大な壁画やタトゥーとして街中に刻まれ続ける存在で、「史上最高の選手の一人」として今も敬愛されています。その死の経緯を問う裁判は、多くの市民にとって単なる法廷ドラマ以上の意味を持っています。
今回の裁判には、医療チームの7人が被告として出廷しており、審理は数カ月にわたる長期戦になると見込まれています。起訴時点では、別の1人については7月に陪審裁判を行う計画も示されていました。
争点は「医療過誤」か、それ以上の責任か
マラドーナは2020年11月、自宅で心不全により60歳で亡くなりました。その数日前には、脳内の血栓(血の塊)を取り除く手術を受けており、自宅での回復期にあったとされています。
検察側は初公判で起訴状を読み上げ、マラドーナが受けた医療体制を「悲惨で、無謀で、欠陥だらけで、前例のないもの」と強く批判しました。また、術後の自宅は、本来必要な医療措置が誰によっても行われなかった「恐怖の劇場」のような場所になっていたと指摘し、医療プロトコル(手順)が守られていなかったと主張しました。
一方、弁護側は、責任を全面的に否定しています。脳神経外科医レオポルド・ルケ被告の弁護人は、自宅での療養(在宅治療)は、医師陣とマラドーナの親族との間で合意されたものであり、医療チームに違法行為はなかったと説明。マラドーナの死は「予見不可能な心臓発作」によるものだと述べました。
精神科医アグスティナ・コサチョフ被告の弁護人も、「新たな証拠により、被告らに刑事責任がないことが示されている」として無罪を主張しています。
被告8人、最大25年の禁錮刑の可能性
検察は、医療チームを「過失致死」よりも重い罪に当たる「simple homicide with eventual intent(未必の故意を伴う単純殺人)」に相当する罪で追及しています。これは、危険性を認識しながら結果を容認したとみなす、重い殺人罪に近い位置づけの罪と説明されています。
有罪となった場合、被告らには8年から25年の禁錮刑が科される可能性があるとされており、医療事故や医療過誤をめぐる責任の取り方を大きく揺るがしかねない重い判断になります。
英雄マラドーナの死と、揺れるアルゼンチン社会
マラドーナは、アルゼンチンにとってサッカーの枠を超えた存在です。ワールドカップ優勝の記憶だけでなく、社会や政治、貧しい人々への共感など、さまざまな物語とともに語られてきました。
そのため今回の裁判は、単なる医療ミスの有無だけでなく、「国民的英雄をきちんと守れたのか」「最後の日々にふさわしいケアが行われたのか」といった、社会的な問いも投げかけています。
法廷内には、元妻や複数の子どもたちも姿を見せており、家族の思いと、医療現場の判断、そしてファンの感情が複雑に交錯する展開となっています。
今後数カ月の注目ポイント
マラドーナの死をめぐるこの裁判は、今後数カ月にわたって続く見通しです。国際ニュースとしても大きく報じられるなか、主な注目ポイントは次のような点です。
- 術後の在宅療養という判断が、妥当な医療判断だったのか
- 医師や看護師が守るべきプロトコルが、どの程度守られていたのか
- 検察が指摘する「恐怖の劇場」と形容されるほどのずさんな体制が、本当に存在したのか
- 弁護側が主張する「新たな証拠」が、どこまで裁判所に受け入れられるのか
マラドーナという稀有なスターの死を通じて、医療の責任、著名人のケア、そしてファンと社会の期待のあり方が問われています。判決が出るまでには時間がかかりそうですが、その過程で明らかになる事実や証言は、アルゼンチン国内だけでなく、サッカーを愛する世界中の人々にとっても大きな関心事であり続けるでしょう。
Reference(s):
Argentina starts trial over death of football icon Diego Maradona
cgtn.com








