イギリスの川再生「リウィグリング」とは? 失われたカーブを取り戻す動き video poster
イギリスでは、まっすぐにされた川に再びカーブを取り戻す「リウィグリング」と呼ばれる河川再生が進んでいます。2025年の今、川の環境危機が深刻化する中で、この動きはなぜ注目されているのでしょうか。
イギリスの川はいま危機的な状態にある
イングランドでは、健全な生態状態にある流域はわずか14%とされています。汚染、ごみ、下水や農業由来の排水、そして干ばつなどが重なり、淡水生態系に大きな負荷がかかっているためです。
こうした問題の背景には、人間が川の流れを長年にわたって変えてきた歴史があります。開発や農地拡大のために、多くの川は直線化され、本来つながっていた氾濫原(洪水時に水が広がる低地)から切り離されてきました。
しかし、川は本来くねくねと蛇行しながら流れる存在です。まっすぐな川は見た目には整っていても、自然のシステムとしては無理が生じやすい構造だと言えます。
リウィグリングとは何か くねりを取り戻す川の再生
イギリスで広がりつつあるリウィグリング(re-wiggling)は、その名の通り、かつて直線化された川に再び「ウネウネ」を取り戻す試みです。
具体的には、次のような取り組みが行われます。
- 川の流路を曲げ、かつてのようなカーブをつくり直す
- 川と氾濫原を再びつなぎ、大雨時に水が自然にあふれ出せる空間を回復する
- 水の流れが速すぎる区間を減らし、流速に強弱をつけることで、魚や水生昆虫がすみやすい環境をつくる
蛇行する川は、水がゆっくりと回り込む場所と早く流れる場所が生まれます。これにより、泥や汚れがたまりにくくなるほか、自然のろ過機能が働き、水質の改善にもつながります。また、さまざまな流れ方や水深の違いがモザイク状の生息環境を生み、生物多様性(いろいろな生き物が共存する状態)を支えることができます。
ノーフォークのリバー・スティフキーで起きた変化
イギリス東部ノーフォーク州を流れるリバー・スティフキーは、全長約29キロのチョークストリーム(石灰岩質の地層から湧き出る透明度の高い川)です。この川も、かつては住宅地や農地を確保するために直線化されました。
その結果、時間がたつにつれて、下水や集中的な農業、浄化槽からの排水などが影響し、繊細な生態系が傷ついていきました。
直線化された川をふたたび氾濫原へ
こうした状況に対して、現地の団体であるノーフォーク・リバーズ・トラストは、数百人におよぶ地域ボランティアとともに本格的な再生プロジェクトに取り組みました。
プロジェクトでは、およそ2キロの区間で、川と氾濫原を再びつなぎ、重機を使って蛇行するカーブを再現しました。人工的に「まっすぐ」に押し込められていた流れに、再び余白とゆとりを取り戻した形です。
野生生物が戻り、水の透明度も回復
その結果は、目に見える形で現れています。
- シラサギやカワウソ、カワセミなどの生き物が川辺に戻ってきた
- 水質が改善し、川の透明度が高まった
- 生き物の種類と数が増え、生態系が「跳ね返る」ように回復しつつある
リバー・スティフキーの変化は、リウィグリングが単なる景観の問題ではなく、水質、生物多様性、そして地域の自然と人の関係を丸ごと変えていく取り組みであることを示しています。
人と自然がともに暮らすためのインフラとしての川
イギリス各地で進むリウィグリングのプロジェクトは、人間の生活と自然が対立するものではなく、工夫次第で両立しうるというメッセージを投げかけています。
蛇行する川は、次のような利点をもたらすとされています。
- 洪水リスクの緩和:水が一気に流れず、氾濫原で一時的に受け止められる
- 水質改善:流れが変化することで、汚染物質が自然に分解されやすくなる
- レクリエーションや地域の魅力向上:水辺の散策路や観察スポットとしての価値
2025年の現在、気候変動による極端な大雨や干ばつが世界各地で話題になる中、川をただ「流すための水路」と見るのか、それとも「地域を守る自然インフラ」と捉え直すのかは、大きな分かれ道になりつつあります。
日本やアジアで考えたいポイント
日本やアジアの多くの地域でも、治水や開発のために川を直線化してきた歴史があります。安全性や経済性を優先せざるを得なかった側面がある一方で、その結果として自然な川辺や生き物のすみかが失われたという面も否定できません。
イギリスで進むリウィグリングの経験は、次のような問いを私たちに投げかけています。
- 洪水対策や都市開発と、自然な川の姿をどう両立させるか
- 「まっすぐで効率的」な川だけでなく、「少し不便でも、豊かな川」をどこまで受け入れられるか
- 地域の人々やボランティアが、川の再生にどう関わることができるか
リバー・スティフキーの事例は、川のくねりを取り戻すことが、単なる環境美化ではなく、地域社会のあり方を見つめ直す契機になりうることを示しています。
川に「 wiggle 」を取り戻すという選択
かつて、人間は川をできるだけまっすぐにしようとしてきました。今、イギリスでは逆方向の試みが少しずつ広がっています。川に再びカーブと余白を与えることは、自然だけでなく、私たち自身の暮らしや価値観を柔らかくしなやかにする一歩なのかもしれません。
川がまっすぐすぎる世界から、少し「くねり」を取り戻した世界へ。私たちはどのような川とともに生きたいのかを考えることが、これからの環境政策や街づくりを考えるヒントになりそうです。
Reference(s):
cgtn.com








