高齢者のスマホ利用で認知機能の低下が緩やかに?米研究の意外な結果
スマートフォンが生活の前提になった2025年の今、高齢者にとってデジタル機器は「脳に悪い」のではなく、むしろ認知機能の低下を緩やかにするかもしれない――そんな米国発の研究結果が報告されています。
米テキサス大学オースティン校の臨床神経心理学者、ジャレッド・ベンゲル氏らの国際研究チームは、スマートフォンやタブレット、パソコンなどの利用と、高齢者の認知機能の変化との関係を大規模データで分析しました。その結果、デジタル機器を日常的に使う高齢者ほど、記憶力や思考力の低下が緩やかな傾向が示されたといいます。
研究の概要:41万人超のデータから見えた傾向
研究チームは、世界各地の参加者41万人以上のデータを解析しました。参加者の平均年齢は69歳で、それぞれについて次のような情報が追跡されています。
- スマートフォンやタブレット、パソコンなどの電子機器をどの程度の頻度で使っているか
- 標準化された認知機能検査における、記憶力や注意力などの成績
分析の結果、スマートフォンやコンピューターを頻繁に利用する人は、そうでない人と比べて、時間の経過に伴う記憶力の低下や全体的な認知機能の衰えが小さい傾向が確認されました。
この成果は、国際的な学術誌『Nature Human Behaviour』に掲載されており、「高齢者とデジタル機器」というテーマについて、従来のイメージとは異なる姿を浮かび上がらせています。
なぜデジタル機器が「脳のエクササイズ」になるのか
ベンゲル氏らは、デジタル機器の利用と認知機能の関係について、「双方向の関係」がある可能性を指摘しています。一方向に単純化できない、という意味です。
- もともと認知機能が高い人ほど、新しいデジタル技術を積極的に取り入れやすい
- 一方で、デジタル機器を使うこと自体が、脳の働きを刺激し、認知機能の維持に役立っている可能性もある
研究チームは、スマートフォンなどの機器が、高齢者の脳にとって次のようなプラス効果を持ちうると説明しています。
- 複雑な作業への参加をうながす(情報検索、手続きのオンライン申請、写真や動画の管理など)
- メッセージやビデオ通話を通じて、家族や友人との社会的つながりを保ちやすくする
- 地図アプリやアラーム、デジタル決済などで、日常の「うっかり」を補い、生活の自立を支える
こうした活動は、問題解決や計画、記憶といった複数の認知機能を同時に使うため、「高齢の脳にとって良いトレーニングになる」と考えられます。
すべての「画面時間」が脳に良いわけではない
一方で、研究チームは「画面さえ見ていれば良い」というわけではないことも強調しています。
特に、テレビのように受け身で視聴する時間は、認知的な刺激が限られ、座りっぱなしの生活スタイルにもつながりやすいとされています。これは、脳の健康という観点からはプラスになりにくいと考えられます。
これに対して、スマートフォンやパソコンのようなインタラクティブ(双方向型)の機器は、次のような特徴があります。
- 自分で操作し、選択し、考える必要がある
- メッセージやオンライン通話を通じて、人との関わりを増やせる
- ゲームや学習アプリなどを通じて、新しいルールや情報を覚える機会が生まれる
同じ「画面の前にいる時間」でも、その質によって、脳への影響は大きく変わってくる可能性があるということです。
専門家はどう見ているか:ポジティブな関係に注目
アイルランドのリメリック大学で経済学を専門とするビンセント・オサリバン氏は、この研究結果を評価し、次のような見方を示しています。
メディアではしばしば、「テクノロジーは人を忘れっぽくする」というイメージで語られます。しかし、この大規模な分析は、デジタル技術の利用と認知の健康との間に、前向きな関係があることを示しているといいます。
オサリバン氏は、こうしたメカニズムをより深く理解することで、将来的に、認知機能の低下リスクが高い人に合わせた支援策やトレーニング法を設計できる可能性があると指摘しています。
高齢の家族とスマホをどう使うか:3つのヒント
今回の研究が示すのは、「高齢者とデジタル機器の関係は、一概にネガティブとは言えない」という視点です。では、私たちは身近な家族とスマホやタブレットをどう付き合っていけばよいのでしょうか。
- 1. コミュニケーションの道具として使う
家族や友人とのメッセージやビデオ通話は、社会的なつながりを保ち、孤立感をやわらげます。まずは写真の送受信や音声通話など、簡単なところから一緒に練習してみるのも一つの方法です。 - 2. 「考える」アプリやサービスを選ぶ
パズル系のゲームや、言語学習、クイズアプリなどは、楽しみながら脳を使うきっかけになります。無理のない範囲で、本人が「面白い」と感じるものを一緒に探してみると続きやすくなります。 - 3. 日常生活のサポートに活用する
カレンダーやアラームで予定を管理したり、地図アプリで道順を確認したり、キャッシュレス決済で買い物を簡単にしたりと、デジタル機器は日常の負担を軽くする道具にもなります。こうした機能を上手に使うことで、「できること」を増やし、自信や安心感につなげることができます。
「スマホ=悪」という思い込みを手放すタイミング
今回の研究は、高齢者にとってのスマートフォンやデジタル機器の意味を、改めて問い直す内容になっています。もちろん、長時間の使い過ぎや夜更かしなど、健康への悪影響に注意する必要はあります。
一方で、適度で質の高い使い方を選べば、スマホは「認知機能を奪う敵」ではなく、「脳と生活を支える味方」になりうることも、データは示しています。
スマートフォンが当たり前になった2025年の社会で、高齢者がデジタル技術から排除されるのではなく、安心して取り入れられる環境をどう整えていくか。今回の研究は、そのための議論に一つの示唆を与えていると言えるでしょう。
Reference(s):
Smartphone Use May Slow Cognitive Decline in Seniors, U.S. Study Finds
cdsb.com








