フランス医師不足 退職医師だけのクリニックという解決策 video poster
フランスで続く医師不足に対し、退職した医師たちが現場に戻るというユニークな取り組みが始まっています。南部の町アルビに生まれた「退職医師だけのクリニック」は、フランスで初めての試みとされています。
医師不足が招く「医療危機」
2025年現在、フランスでは医師不足が大きな課題になっており、「医療危機」とも呼ばれています。患者の受け皿となる家庭医が足りず、診察を受けるまで長く待たされるケースも出ています。
フランス南部の町アルビでコーヒーを飲みながら近況を語るのは、退職医師のイヴ・カルカイエさんです。彼は長年家庭医として診察を続け、いったんは引退しましたが、そのわずか1年後、医師不足の現場に戻ることを決めました。
アルビ発「退職医師クリニック」
きっかけは、アルビの市長からの相談でした。地域の医師不足をどうにかしたいと頼まれたカルカイエさんは、期間を区切った臨時クリニックをつくるというアイデアを打ち出します。
行政からの承認を得て開いたそのクリニックは、現役の若い医師ではなく、退職した医師だけでスタッフを固めたフランス初の施設です。カルカイエさんは午前中にカフェでひと息ついたあと、自ら立ち上げた医療センターで午後の診察に向かいます。50年にわたって家庭医として働いてきた彼にとって、診察室はなじみのある場所です。
経験豊富で「安価」な戦力
カルカイエさんは、インタビューに対し「万能薬ではないかもしれないが、ここには働きたい人材がいる」と語っています。フランス各地には、すでに引退したものの、可能であれば再び患者を診たいと考える医師が少なくないといいます。
退職医師たちは、長年の臨床経験と専門知識を持ち、診療の現場をよく知っています。さらに本人たちは「もうお金のためだけには働いていない」ため、地域にとっては比較的少ない負担で医療体制を補強できる存在でもあります。
カルカイエさんは「フランスのどこに行っても、まだ働きたいという退職医師はいる」と指摘します。医師不足が深刻な地域にとって、こうした人材は頼もしい後ろ盾になり得ます。
それでも「万能薬」ではない
一方で、本人が語るように、この取り組みだけで医師不足がすべて解決するわけではありません。退職医師は年齢的な制約もあり、長期的に地域医療を支えるためには、若い世代の医師をどう育て、どう定着させるかという課題が残ります。
それでも、現場で今すぐ必要とされる医療アクセスを確保するための「つなぎ」として、退職医師の活用は現実的で即効性のある手段の一つと言えます。患者にとっても、経験豊富な医師に診てもらえる安心感は小さくありません。
日本への示唆――知と経験をどう生かすか
日本でも高齢化が進み、地域の医療体制をどう維持・強化するかは大きなテーマになっています。フランス・アルビの事例は、退職した医師たちの「知」と「経験」を、どのように社会のために生かすことができるかという問いを投げかけています。
現役世代だけに負担を集中させるのではなく、働き方や勤務時間を柔軟にしながら、退職医師が無理なく参加できる仕組みをつくる。そうした発想は、医師不足だけでなく、高齢化社会全体の働き方を考えるヒントにもなりそうです。
小さな地方都市から始まった退職医師クリニックの試みが、フランスの医療政策、さらには各国の医療のあり方にどのような影響を与えていくのか。今後の動きにも注目が集まりそうです。
Reference(s):
France turns to retired doctors to address medical staffing shortfall
cgtn.com








