米スケッチャーズ、94億ドルで売却 トランプ関税で揺れる靴業界
トランプ大統領の関税強化で揺れる米国の履物業界で、米靴大手スケッチャーズが約94億ドルでの売却に合意しました。関税リスクが高まる中での非公開化は何を意味するのか、ニュースのポイントを整理します。
スケッチャーズ、94億ドルで非公開化へ
米時間の月曜日、米靴大手スケッチャーズは、投資会社3Gキャピタルに売却されることで合意したと発表しました。取引はスケッチャーズの企業価値を約94億ドルと評価し、3Gキャピタルが発行済み株式1株当たり63ドルを支払う内容です。
両社は、この取引が年内にも完了する見通しだとしています。完了後、スケッチャーズは株式市場から上場廃止となり、非公開企業となりますが、最高経営責任者(CEO)のロバート・グリーンバーグ氏は続投し、引き続き経営戦略を指揮する予定です。
スケッチャーズは世界で約5,300店の小売店網を持ち、そのうち約1,800店を直営しています。2024年には売上高90億ドル、純利益6億4,000万ドルと、いずれも過去最高となる業績を記録していました。
背景にあるトランプ政権の関税強化
今回の売却について、スケッチャーズと3Gキャピタルは、トランプ政権の関税政策との直接の関連には触れていません。しかし、市場では関税の影響が取引の背景にあるとの見方が根強くあります。
スケッチャーズの昨年の売上のほぼすべてはアジアで生産された靴によるもので、売上全体の約3分の2は米国外での販売でした。輸入品に高い関税がかかる環境では、同社のようにグローバルな生産・販売に依存する企業ほど打撃を受けやすくなります。
業界全体で高まる危機感
4月29日、スケッチャーズはナイキやアディダスなど他の大手ブランドとともに、トランプ大統領に宛てた書簡に名を連ねました。書簡は、米履物業界の業界団体であるフットウェア・ディストリビューターズ・アンド・リテイラーズ・オブ・アメリカ(FDRA)と、80社超の米国の靴メーカー・小売企業が連名で提出したものです。
書簡の中で企業側は、ホワイトハウスによる大規模な関税引き上げが、履物業界にとって「存続そのものへの脅威」だと警告しました。もともと靴には高い関税がかかっているうえ、今回の追加関税によって、とくに子ども靴などで関税負担が150%超から220%近くにまで跳ね上がるケースがあると指摘しています。
さらに、書簡はトランプ政権の関税が米国内の生産回帰にはつながらないと訴えました。むしろ、長期的な設備投資に必要な「ビジネスの見通し」が失われることで、米国内に靴の生産拠点を築くことが難しくなるとしています。
企業側は、関税によって米国内の履物関連の雇用が失われ、消費者価格の上昇を通じて消費が冷え込み、米経済全体が損なわれることへの深い懸念も示しました。
なぜ今、非公開化なのか
スケッチャーズの売却合意は、こうした不透明な環境の中で発表されました。南カリフォルニアに本拠を置く同社の株価は、ここ数カ月、関税懸念を背景に下落していました。最新の第1四半期決算も市場予想を下回り、投資家の警戒感は強まっていました。
4月には、スケッチャーズは通期の業績見通しを撤回しています。最高財務責任者(CFO)のジョン・ヴァンデモア氏は、その理由として世界の貿易政策に起因するマクロ経済の不確実性を挙げ、現在の環境をパンデミック時に近い状況だと表現しました。同社は、仕入先とコストを分担したり、販売価格を調整したりすることで、トランプ政権の関税による影響を和らげようとしていると説明しています。
こうした状況のなかで非公開化を選ぶことは、短期的な株価の変動や四半期ごとの業績目標から一定の距離を置き、長期的な視点で事業構造やサプライチェーンを見直すための一手とも考えられます。関税や為替、貿易摩擦など、先行きが読みづらい要因が増えるほど、未公開企業として柔軟に動きたいというニーズは強まりやすいからです。
米国の履物業界と消費者への影響
FDRAと各社の書簡が強調したのは、関税の問題が企業の損益だけにとどまらないという点でした。負担が企業に偏れば、利益圧迫から人員削減や店舗閉鎖につながる可能性があります。一方で、関税分を価格に上乗せすれば、家計の支出が増え、消費を冷え込ませる要因になります。
つまり、企業がコストを吸収しても、消費者に転嫁しても、業界と消費者の双方に痛みが生じる構図です。書簡は、このような連鎖が米経済全体を根本から妨げると懸念を示しました。
グローバル企業への示唆
スケッチャーズのように、アジアで生産し世界で販売するビジネスモデルは、コスト面では効率的である一方で、関税や通商政策の変化に非常に敏感です。今回の事例は、靴業界に限らず、多くのグローバル企業に共通するリスクを浮き彫りにしています。
日本やアジアの企業にとっても、人件費や生産コストだけでなく、各国の関税や貿易政策をどう見通しに織り込むかが、これまで以上に重要になっているといえます。サプライチェーンの再構築や、生産・販売拠点の分散といった戦略は、今後ますます経営の中心的なテーマになりそうです。
押さえておきたい3つのポイント
- 米スケッチャーズは投資会社3Gキャピタルによる約94億ドルの買収に合意しており、年内にも非公開企業となる見通しです。
- スケッチャーズを含む80社超の履物メーカー・小売企業は、トランプ政権の関税政策が履物業界の存続を脅かし、雇用や消費を通じて米経済全体に悪影響を及ぼすと警告しています。
- アジア生産と海外売上に大きく依存するビジネスモデルは、関税や貿易政策の変化に弱く、日本を含むグローバル企業にとっても他人事ではないリスクであることが浮き彫りになりました。
トランプ政権の関税強化が続く中で、他のスポーツ・アパレル企業や小売業にも同様の動きが広がるのかどうか。スケッチャーズの売却は、貿易政策リスクの時代に企業がどのように生き残りを図るのかを考えるうえで、象徴的な一件になりそうです。
Reference(s):
US footwear giant Skechers to be sold under shadow of Trump's tariffs
cgtn.com








