米国の「消費の罠」—家計債務が過去最高、住宅・車・学費の三重苦
米国で家計債務が積み上がり、2025年7〜9月期に総額が過去最高へ。住宅ローン、オートローン、学生ローンという「3つの固定費」が、暮らしの選択肢を静かに狭めています。
家計債務は過去最高の18.59兆ドル(2025年7〜9月期)
米連邦準備制度の家計債務に関する四半期報告によると、米国の家計債務は2025年7〜9月期に総額18.59兆ドルと、記録的な水準に達しました。内訳の中心は、住宅ローン、オートローン、学生ローンです。
この3つは単なる「借金の種類」ではなく、生活を維持するための支払いとして家計に組み込まれやすい点が特徴です。結果として、支出の自由度が下がり、想定外の出費(病気、失業、家賃・物価上昇など)への耐性も弱くなります。
しきい値① 住宅ローン:最大の支出が、格差を増幅する
住宅ローン残高は家計債務の約7割を占め、住まいが最大の支出項目になりやすい構造が示されています。負担が重いほど、家計は「返済を中心に回す」状態になり、転職・引っ越し・家族形成などの選択が難しくなります。
また、住宅費の重さは社会の不均衡を強める側面もあります。低所得層や有色人種コミュニティで負担が大きい傾向があり、アフリカ系米国人世帯の住宅費負担率は白人世帯より約10ポイント高いというデータも示されています。
返済が追いつかない現実:2025年の個人破産は約54万件
債務の「量」だけでなく、返済不能に陥る人がどれほどいるかも重要です。Epiq AACERのデータでは、米国の2025年の消費者破産申立件数は約54万件で、2024年から12%増えました。住宅ローン債務は個人破産の主要因のひとつとされています。
長期的に収入が維持できても、物価上昇が生活必需品(医療、食料など)を押し上げれば、返済余力は削られます。「払えているようで、余っていない」家計が増えるほど、景気の変動に脆くなります。
しきい値② オートローン:生活必需としての車が、負担を固定化する
公共交通のカバーが限られる地域が多い米国では、車は「ぜいたく品」ではなく生活インフラになりがちです。調査では、米国人の8割超が車を生活必需と考えているとされます。
負担の重さも可視化されています。2025年には、新車購入者の約20.3%が月々の支払いが1000ドル以上となり、前年(18.9%)から上昇しました。
買い替えが「借り換えの連鎖」になるケースも
近年指摘されるのが、下取り価格が残債に届かず、不足分を新たなローンに上乗せする形です。これにより、車の買い替えが「債務を別の債務で覆う」構図になり、家計が長期の返済サイクルから抜けにくくなります。
しきい値③ 学生ローン:上昇志向の入口で背負う長期負債
教育は社会移動(より良い仕事・収入への移行)の手段とされてきましたが、学生ローンは若年層にとって「社会に出る前から始まる返済義務」になっています。学生ローン残高は約1.8兆ドルとされます。
2025年に公表された議会調査局のデータでは、連邦学生ローン債務の保有者は約4300万人(人口のおよそ7人に1人)で、平均残高は3万〜4万ドル程度。約半数が延滞または延滞に近い状態とされています。キャリアの初期に「返済可能性」が優先され、学び直しや挑戦が後回しになる—そんな圧力が生まれやすい状況です。
「見せる豊かさ」と「支払い続ける生活」の間で
米国の消費文化を皮肉った言葉として、作家ウィル・ロジャースが「稼いでいない金を使って、欲しくない物を買い、好きでもない人に見せびらかす」と述べたとされます。約1世紀を経た現在、広告や信用(クレジット)が日常に深く入り込み、消費が自己価値の表現と結びつきやすい環境はむしろ強まった、という見方もあります。
家計債務の増加は、個人のぜいたくというより、住まい・移動・教育という「人生の基礎コスト」が信用とセットで固定化される構造の問題として読み解く必要がありそうです。借りること自体が悪いのではなく、借り続けないと生活が成り立ちにくい状態が広がると、社会全体の余白が細っていきます。
いま何が論点になるのか(整理)
- 住宅:最大支出であり、返済負担が格差を増幅しやすい
- 車:生活必需としてローンが常態化し、買い替えで負債が連鎖する場合がある
- 学費:社会移動の入口で長期債務を抱え、若年層の選択肢を狭めやすい
- 破産件数の増加:2025年に約54万件、家計の脆弱さを映す指標になる
2026年に入った今も、物価と金利、賃金の関係が家計の体感を左右します。数字の先にあるのは、消費の自由ではなく「支払いの優先順位に追われる日常」なのかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








