北京・故宮博物院100年 守り継ぐ遺産と「未来をつくる博物館」への挑戦 video poster
2025年に創設100年を迎えた北京・故宮博物院。9月下旬に始まった特別展と国際メディアCGTNの番組を通じて、この世界遺産が守り続けてきた遺産と、次の100年に向けたイノベーションの姿が浮かび上がっています。
故宮博物院100周年と特別展
2025年は、北京の故宮博物院にとって節目の年です。かつて中国の明・清両王朝の皇宮として使われ、現在はユネスコの世界文化遺産に登録されている故宮は、いまや「静かな古建築」ではなく、中国の長い歴史と文化を今に伝えるダイナミックな博物館として国際ニュースでも注目されています。
100周年を記念して、9月下旬には特別展A Century of Stewardship: From the Forbidden City to the Palace Museumが一般公開されました。この特別展は、故宮が「禁じられた都」から公共の博物館へと変わっていく100年の歩みを振り返りながら、その根底にある「守り」と「継承」の理念を伝える試みです。
特別展が伝える三つのキーワード
公開されている情報からは、特別展がおおよそ次のようなテーマを軸に構成されていることがうかがえます。
- 皇宮から博物館へと姿を変えた100年の物語
- 文化財を守りながら、一般の人々に開かれた空間として再生してきた歩み
- 「継承」と「イノベーション」を両立させるための挑戦
タイトルにある stewardship という言葉には、「預かり、守り、次世代へ手渡す」というニュアンスがあります。故宮博物院の100年は、まさにその実践の積み重ねだったといえます。
「生きた博物館」としての故宮
故宮は、しばしば中国の五千年に及ぶ文明を体現する場だと語られます。広大な中庭や回廊、門や殿堂の一つひとつが、歴史と現在の「対話の舞台」として機能しているという見方です。
今回の100周年にあわせた紹介では、故宮が次のようなかたちで「生きた博物館」として描かれています。
- 赤い城壁や黄色い瓦など、歴史的な景観を保ちながら、その背景にある物語を現代の来館者にわかりやすく伝えていること
- 収蔵品だけでなく、建築そのものや中庭の空間が展示の一部となり、訪れる人々に時間を超えた体験を提供していること
- 過去の皇帝や職人たちの暮らし・仕事と、現在の研究者や来館者の日常が重なり合う場となっていること
こうした視点は、世界各地の歴史的建造物や博物館にとっても共有される課題であり、日本の文化財を考えるうえでもヒントになる視点です。
CGTNの番組「THE HYPE」が読み解く文化のコア
故宮博物院100周年をめぐる動きは、国際メディアでも取り上げられています。CGTNの番組THE HYPEでは、ホストのジュリアン・ワガン氏が4人のゲストとともに、故宮の「文化的なコア」を読み解く特集回を放送しました。
番組には、次のような分野からゲストが参加しました。
- 清華大学建築学院の准教授である Martijn de Geus 氏
- ドキュメンタリー映画
Masters in the Forbidden City と A Century of Stewardship のロケーション・サウンド・レコーディスト Zhang Jianxi 氏 - 現代アートのシニア・スペシャリストである Cao Zijin 氏
- 北京を拠点とするバイリンガルツアーガイドの Yao Haijian 氏
建築、映像制作、現代アート、観光という異なる専門分野のゲストが一堂に会することで、故宮博物院が持つ多層的な魅力と課題が、立体的に浮かび上がる構成になっています。
建築・映像・アート・観光、それぞれの視点
建築の専門家である Martijn de Geus 氏は、皇宮建築としての故宮の構造や空間性に注目しながら、その保存と活用のバランスについて語る立場にあります。壮大なスケールの歴史的建造物を、現代の都市生活とどう調和させるかという問いは、多くの大都市が直面しているテーマでもあります。
一方で、Zhang Jianxi 氏は、故宮をテーマにしたドキュメンタリー作品の現場録音を通じて、日々行われている文化財保護の仕事や、静かな空間に満ちる音の世界を記録してきました。番組では、その経験をもとに、博物館の「目に見えない日常」を伝える役割を担っています。
現代アートに詳しい Cao Zijin 氏は、伝統的な宮廷文化と現代アートの表現がどのように響き合い、新しい作品や企画につながっていくのかという観点から、故宮の可能性を語ります。歴史資料としての価値だけでなく、現代の創造性を刺激する場としての故宮という姿が強調されています。
また、観光の最前線に立つツアーガイドの Yao Haijian 氏は、多言語で来訪者と向き合う経験を踏まえ、世界各地から訪れる人々にとって故宮がどのように受け止められているのか、どんな説明やストーリーテリングが響くのかといった点を紹介しています。
番組全体を通じて、故宮博物院の100年は「自信」「包容力」「イノベーション」という三つのキーワードで語られています。異なるバックグラウンドを持つ専門家が同じ場所を語ることで、文化的な遺産がいかに多様な解釈を生み出しうるかが示されています。
100年目の故宮が投げかける問い
特別展と番組の両方に共通しているのは、故宮博物院を「過去を保存するだけの場所」ではなく、「未来をつくる場」として捉えようとする視点です。赤い城壁と黄色い瓦のあいだから、新しい時代に向けた物語が立ち上がっているというイメージが繰り返し描かれています。
この視点からは、次のような問いが見えてきます。
- 膨大な文化財をどのように守り、次の世代に引き継いでいくのか
- 観光地としての人気と、静かな研究・保存活動をどのように両立させるのか
- デジタル技術や現代アートを取り込みながら、歴史的な空間の魅力を損なわずに伝えるにはどうすべきか
これらは、北京の故宮博物院だけでなく、世界中の博物館や歴史的建造物が直面している共通のテーマでもあります。日本で文化財や美術館に関心を持つ読者にとっても、自分たちの身近な場所をどう守り、活かしていくかを考えるきっかけになるでしょう。
創設100年を迎えた故宮博物院は、過去と現在、そして未来をつなぐ「対話の場」として、新たな一歩を踏み出しています。その歩みを追うことは、私たち自身がどのような文化の形を次の世代に手渡していきたいのかを静かに問い直すことにもつながります。
Reference(s):
Live: Palace Museum at 100 – Stewardship, legacy and innovation
cgtn.com








